蟲師/香る闇(漆原友紀)

92 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/10(金) 15:31:36
漫画『蟲師』より『香る闇』

この作品の世界には「蟲」と呼ばれる架空の生物が存在している。
この蟲とは、いわゆる物の怪や幽霊のようなもので、
蟲の生態を研究し、各地で対処法などを伝聞している人々を「蟲師」と呼んでいる。

とある山里に一人の農夫が住んでいた。
彼は妻と娘と三人で畑を耕しながら平凡に暮らしていたが、
夜に花の香りを嗅ぐと、ふと奇妙な不安感に襲われることがあった。
それは何か大切な事を忘れているような感覚だったが、何を忘れているのかはいつも思い出せない。

ある雨の日。旅人が農夫の家を訪れ、一夜の宿を貸すことになった。
旅人は蟲師を名乗り、泊めてくれた礼に「何か困りごとがあれば相談に乗る」と言うが、
困りごとなど特に思い当たらない農夫はやんわりとそれを断る。
蟲師は代わりに里の外の珍しい話などを語って聞かせ、あくる日には里を発っていった。

そのような出来事があっても農夫の日常に大きな変化は無く、
やがて月日は流れ、成長した娘は嫁に行き、農夫は妻と水入らずな生活を始めた。
しかしある晩、山菜取りに山に入った農夫は、そこで見慣れない洞穴を見つける。
誰かが掘った里への近道かと思い、また急いでいた事もあって彼はその洞穴へと足を踏み入れた。
どういう訳か中に漂う濃密な花の香りに包まれながら、農夫は忘れていた懐かしい日々を思い出していく。

昔々、まだ子供だった農夫は山里ではなく町で暮らしていた。
彼の家は酒の蔵元で、奉公に来ている少年が厳しい扱いを受ける傍ら、何不自由ない生活を送っていた。
しかしある時、農夫は誤って家宝の壺を壊してしまい、咄嗟にその罪を少年に擦り付ける。
結果少年はクビになったが、出ていく間際、彼は酒蔵の酒を全て抜いていた。
その損害から家は破産し、農夫は母親に連れられて山里へと移り住むことになる。

慣れない新生活に戸惑う農夫だが、ある時、梅?の木の下で一休みしていると、
同い年ぐらいの少女が枝へと手を伸ばしている姿が目に映った。
農夫は傍らに近づいて手渡してやるが、彼女が振り返った瞬間に奇妙な既視感を覚える。


93 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/10(金) 15:32:41
その後成長した農夫と少女は夫婦となり、娘を儲け、
蟲師に宿を貸し、娘を嫁に出し、農夫と妻の二人きりの生活が始まった。
そして再びあの見慣れぬ洞穴に行きつき、妙だなと思いながらも中へと入ってしまう。

再び少年時代に戻る農夫。しかし違和感は確実に以前よりも強まっていた。
慣れ親しんでいる筈の家に懐かしさを覚え、事あるごとにに強い既視感を感じる。
流石にこれはおかしいと思った農夫は、例の蟲師が泊まった際に相談を持ちかけた。
話を聞き終えた蟲師は、それは「廻廊」という蟲のせいではないかと言う。
廻廊は黒い筒状の蟲で、内部から花の香りを漂わせて昆虫や動物を誘い込み、獲物の時間を円筒状に歪めてしまうのだ。
そうなったら最後、獲物となった者が思った通りに過去を変えられたという事例はないが、
農夫が違和感を覚えたということは、廻廊と同化しつつある兆候なのかもしれないと蟲師は言う。
「二度とくぐろうとは思うなよ」と忠告だけを残して彼は里を発って行った。

やがて月日は流れ、農夫は三度あの洞穴を見つけた。
しかし「過去よりもまだ見ぬ未来を見たい」と思った農夫は、廻廊に背を向けそのまま山を下る。
家にたどり着くと出てきた妻を抱きしめ、「このお前は初めて見る」と感極まる農夫。

だが、これから新しい毎日が始まると思われた矢先、
夫婦揃って茸狩りに向かった際に事故に遭い、妻が瀕死の重傷を負ってしまう。
農夫は彼女を負ぶって山を下りていくが、妻の体はどんどん冷えていき、このままでは間に合わない。
焦る彼の視界に、ふとあの洞穴……廻廊が目に入った。
蟲師に告げられた忠告が一瞬頭を過るが、農夫は静かな様子で妻に語りかけながら洞穴の中に入る。
「大丈夫、お前は助かるんだ。そしてまた遠い未来に、俺と一緒に暮らすんだ」

少女(妻)は花の香りを嗅ごうと、高い位置にある枝へと手を伸ばしていた。
その傍らに見知らぬ少年(農夫)がやってきて、枝を手渡してくれる。
やがて成長した二人は夫婦となり、娘を設け、平凡に暮らしていたが、
妻は夜に花の香りを嗅ぐと、ふと恐ろしいような懐かしいような何かを思い出しそうになり、違和感を感じるのだった。


94 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/10(金) 15:34:16
要するに夫婦二段階で無限ループしてましたよって話
ラストがまた蟲師が訪ねてきたところで終わるんだが、
仮に農夫みたいに気づいても妻の場合は自分の意思で廻廊を通ったわけじゃないし
そもそも無限ループを拒否すると死亡確定だろうし
いい感じに救いが無くて、後味悪かった

 

蟲師(10) (アフタヌーンKC)
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