ホーム » 小説 » その他書籍 » ビートルズを知らなかった紅衛兵―中国革命のなかの一家の記録(唐亜明)

458 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/23(木) 09:42:37
唐亜明 「ビートルズを知らなかった紅衛兵」より

封建中国では、女性は自分の名前を持つ権利を有しなかった。
祖母(父の母)の名前は戸籍では、もともと、「唐呉氏」になっていた。
つまり祖父の姓(唐)に自分の姓(呉)と氏ををくっつけていただけだった。
(日本でいえば「山田佐藤君」みたいなものだろう)

私は子供の頃、祖母に「おばあちゃんの名前、呉宝章なんて、男の名前みたいだね」とからかったことがある。
すると、祖母は、「お前の母さんに聞いてみな」と、とがめる口調で言った。その事情は母が教えてくれた。
父が日本に留学していた時、父はしばしば祖母に書留の手紙を送った。
その当時、郵便局は蒋介石の「新生活」政策を実施しており、「唐呉氏」のような間違い易い名前を認めなかった。
書留の手紙を受け取るには印鑑が必要なので、祖母は母に印判屋で木製の印鑑を作るよう頼んだ。
(祖母の)子供の時のあだ名「宝卿」を使うことにした。

母は印判屋に「呉宝卿章」と注文したが(「呉宝卿之印章」の意)、
家に持って帰って見ると、「呉宝章」となっていた。祖母はやり直せばまたお金がかかると思い、
「これでいいよ。書留を受け取るだけのことだから」と言い、日本にいる父に、手紙の宛名には
「唐呉氏ではなく呉宝章と書いてくれ」と伝えた。以来、戸籍登録も身分証も、みな「呉宝章」になってしまい、
ついには祖母の正式な名前となったのである。

祖母は名前を持てなかったが、急に名前が使えるようになっても、
この権利が印鑑代より安いとしか思われなかったのであろう。


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