煌夜祭(多崎礼)
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688 名前:本当にあった怖い名無し :2010/11/05(金) 15:45:53
- 昔読んだ短編を何となく思い出したからうろ覚えで書く
人を食う「怪物」が存在する中世風(?)の世界が舞台
物語を他人に語って利益を得る職業(道化みたいな)の男がいた(年齢不明)
男は下層階級の出身であり、ボロボロでみずぼらしい格好をしていたが、
何故かその日は上流階級の人間が暮らす町をさ迷っていた
その日は一年で最も気温が下がる日で、そんな日は必ず怪物が徘徊して人を襲う
男は飢えと寒さと怪物への恐怖に耐えながら宿を与えてくれる家を探し歩き、やがて町で一番大きな屋敷にたどり着く
男は屋敷の門を叩き、「どうか一晩泊めて下さい。馬小屋でもかまいません」と哀れげに頼んだ。
対応に出てきた召し使いの女は「今夜は人を泊められない」と拒否したが、
男があまりにも哀れそうな声を出すので仕方なく門の中へ招き入れた
男は薪小屋へ案内され、召し使いは「明日になれば朝食を持ってくる」と言った。空腹だった男は失望したが、叩き出されるよりはマシだと思って文句は言わなかった
召し使いは男を泊める条件として「何があっても薪小屋の外を見ない。薪小屋から出ない」という約束をさせた。
召し使いは何かに怯えているようだった
疲労からすぐに寝入った男だったが、飢えと寒さによって夜中に目を覚ましてしまう。
すると、薪小屋の外から肉の焼けるいい匂いが漂ってきた
男が恐る恐る薪小屋の外を覗こうと扉を開くと、
肉や木の実や酒やパンやバターといった様々な食べ物の匂いが入り込んで来て、男の口の中に大量の唾が溢れた
小屋の外の中庭の中央で積み重ねられた薪が燃えており、
その側に大きなテーブルが置かれ、テーブルには様々なご馳走が大量に並んでいた
つづく
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689 名前:本当にあった怖い名無し :2010/11/05(金) 15:46:39
- つづき
男は召し使いとの約束を思い出しながらも、
「あれだけ大量にあるなら、一口づつ食べてもばれはしない」と考えた
男は小屋から抜け出してテーブルの上の肉にかぶり付いた。
その肉は男がこれまで食べたことが無いような素晴らしい味で、
男は「一口だけ」という考えを忘れて次々とご馳走を食べていったやがて男は満腹になり、「もういつ死んでも悔いは無い」と思ったが、すぐに我に返って怯え、急いで小屋へ戻ろうとした
しかし、男の背後から誰かが声をかけてきた。男は大急ぎで向き直って土下座し、何度も謝罪した
男に声をかけたのは、黒い布を身に纏った色白の若者(性別・年齢不明)だった。若者は男に「許す」と言った
そして若者は「空腹の貴方より、今の満腹の貴方の方が美味しそうだ」と言った
男はこの若者が人食いの怪物なのだと悟り、必死に命乞いをした。
怪物は「私だって空腹なんだ。こんな寒い夜はどうしても人を食べずにはいられない」と言った
男は空腹な怪物に少し同情したが、命乞いを続けた
男は言った「俺を食えば、俺しか知らない物語が誰にも知られることなく消えてしまう」
怪物は言った「じゃあ、君の知っている物語を私が聞いて、その後で君が消えれば問題は無いじゃないか」
その後、二人は言い合い、最終的に
「男は知っている物語を全て語り続け、怪物は物語で空腹を紛らわせる。
男が夜明けまで時間を引き延ばすことが出来れば、日光が苦手な怪物はそのまま家に帰る」
という約束をした
男は必死に物語を語り続け、怪物は熱心に聞き入った。
怪物は理不尽な話に怒り、馬鹿話に笑い、悲しい話に涙ぐみ、冒険談に喝采を送った
しかし、男が知っている物語も底を尽いてしまう。
怪物は「早く話さないと、私は貴方を食べてしまうのを我慢できない」と言った
男が必死に記憶を探ると、まだ一つだけ物語が残っていることに気が付いた
つづく
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690 名前:本当にあった怖い名無し :2010/11/05(金) 15:47:19
- つづき
男が最後に語ったのは、一人の孤児の物語だった
奴隷や家畜のように扱われる一人の孤児が、疫病と飢饉を生き延び、施設から逃げ出し、
語り部に憧れて語り部になるが、やがて追われ身になっってしまうという物語だった
孤児の物語の終盤、追われ身の孤児は怪物に出くわし、自分の命を守るために怪物に物語を語って聞かせるが、
やがてその物語も尽きてしまい、最後に自分の身の上話をするそして男は物語の最後にこう言った
「『俺が語れる物語はここまでだ。さあ、俺を食ってくれ』」
怪物はもう本当に男の物語が尽きたのだと知ると、
「貴方を食べたくない。もっと物語を聴かせて聞かせてくれ」と言い、苦しみだした
怪物は屋敷の方を向くと「父上、見ているのでしょう。なぜこの男を助けないのですか?」と言った
怪物の姿は変貌し、人の姿から恐ろしい化け物の姿に変貌していたが、最後の理性で空腹に抗っていた
苦しむ怪物を哀れに想った男は、
「もういい、俺の話をあんなに真剣に聴いてくれたのはお前だけだ。腹が減った時はお互い様だ」
と言い、目を閉じた翌朝、屋敷の中庭には人間の骨が散らばっていた
怪物の実の父である屋敷の主は、その骨を丁重に葬るように召し使いに命じた
そして、怪物が男の物語を聴いていた時だけは理性を保っていたことを思い出し、
もしかしたら怪物は物語さえ聞いていれば人を食わなくてもいいのかもしれないと考えた
その後、屋敷の主は「一番面白い話をした奴に賞金を払う」という祭りを一年に一度開き、
怪物は闇に紛れて語り部達の語る物語を聴き、夜明け前に物語が途切れれば語り部達を食べてしまった
終わり
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714 名前:本当にあった怖い名無し :2010/11/06(土) 13:38:19
- >>688それ知ってる。
最後の孤児の話が終わった時に、魔物が「この孤児の物語を終わらせるのが自分だ」と
悟った時の絶望感が何となく後味悪かった気がする。
たしか魔物は幼い頃から地下牢に監禁されていて、一年に一度どうしても人を食わないといけない日だけ
外出を許されてて、魔物にとって語り部は初めて真剣に話をしてくれた相手だった。
追われ身だった語り部自身も熱心に話を聴いてくれたのが魔物が初めてで、後半では自分の身より魔物に同情していた。作品全体としては、祭に参加した語り部が交代で物語を語っていく連作短編みたいな話で、
その孤児の語り部が食われる話もその語りの一つ。
たしか、その話をした語り部自身が実はその魔物だったてオチだった(主人公は初めから魔物の正体に気がついていた)。
主人公は人間の語り部で、語っていくうちに魔物が世間の人間達に受け入れられる方法を示す。
最後には主人公が「魔物の姫、私はあなたを救えたでしょうか?」って聞いて、
魔物の女は「貴方は私だけでなく、世界中の全ての魔物を救ってくれました」って言って終わる話だった気がする