屍活師 女王の法医学/老人ホームの話(杜野亜希)
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143 名前:本当にあった怖い名無し :2010/11/15(月) 16:49:34
- 「屍活師」という漫画
「屍は活ける師なり」という理念のもと、死体を解剖する事で事件の謎を解いたりする話主人公の青年は医大生で、事件事故に関わる死体を解剖する法医学が専攻。
苦学生である彼は大学に通いつつバイトも複数行っており、その一つが老人ホームでの仕事だった。
ある日ホームを訪れると、老婆数名が近所のお寺に参っているところだと聞かされた。
その寺に参るのは老婆たちの日課。
老婆たちは五人で仲良しグループをつくっていつも一緒にいるのだが、
青年が寺へ見に行くと、五人そろっておらず、一人欠けて四人だけになっていた。
その欠けている一人は美枝という人物だが、彼女は昨日に事件を起こしたため来なかったのだという。美枝は近頃痴呆が進んでしまっており、昨日は暴れだし、ホームの職員を突き飛ばしてしまった。
倒れ込んだ職員は傍のガラスにぶつかり、割れたガラスで怪我を負ってしまった。
美枝は痴呆ながらも、人に迷惑をかけてしまったということはわかっているようで、落ち込んだ様子で食事も摂らなかったという。
昨日の昼には、いつもは嫌がるの往診の点滴を黙って受けて、それからずっと一人で寝込んでいるらしい。四人と共にホームに帰った青年が美枝の部屋を訪ねると、彼女は亡くなってしまっていた。
急な事だったが、最近は痴呆が進んでいたのでまだ救いだったのかもしれないとホームの老人たちは口々に言う。
だが、青年はこれは自然死ではないかもしれないと気づく。
点滴の針の後がある左腕の上腕部に縛ったような跡があったためだった。
もしかしたら虐待かなにかがあったのではないか、その疑いから美枝は解剖されることになった。青年は助手として美枝の解剖に携わる事になった(まだ医師免許は持っていないので、執刀は他の人がやる)。
美枝の両手の爪には人間の皮膚片があった。
虐待をした人間にしがみついたものと思われ、皮膚片から血液型などを調べる事になる。
また、美枝の首元にはかぶれがあった。
金属アレルギーによるもので、知人からもらったアクセサリーをつけた際にできたものだった。
一方で、美枝の髪には金属製の髪ピンがつけられており、そちらの方にはアレルギー反応がない。
恐らくは死後に、犯人がつけたもののようだった。
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144 名前:本当にあった怖い名無し :2010/11/15(月) 16:51:40
- 縛られたような跡は左腕以外にはなく、虐待の線は薄いように思われたが、
外観だけではわからない事を知るために解剖が始まった。解剖したところ、心臓近くの大動脈の破裂と、脳内出血が見られた。
二か所で同時に血管が破れるというのは自然状態では有り得ない事。
美枝は生前、血圧が特に高いわけではなかったので、どちらか片方だけでも起こる可能性は低かった。
つまりは、何者かが薬剤を注射し、意図的に血圧を高めて死に至らしめたと考えて間違いなかった。美枝の点滴跡の周囲は少し腫れていた。
点適時のミスにしては、腫れの色は変化しておらず、まるで亡くなる直前に内出血したようだった。
美枝を殺した者は、点滴を受けた箇所と同じ場所に注射をしたのだと思われた。
血管がもろくなっていたため、2度目の針で内出血を起こしたのだった。
また、虐待ではないかと疑われた縛った跡は、注射のため静脈を浮き出させるために巻きつける「躯血帯」の跡だった。
本来医療で用いられるゴム管がないために普通の紐を用い、そのために跡がついたのだった。
跡を見るに、縛り方は普通の丸結びとかではなく、医療現場で実際に使われる特殊なもの。
そして、点滴と同じ箇所に注射をするというのはかなり難しい技術。犯人は医療関係者だと思われた。美枝に注射をしたのは、仲良し五人グループのうちの一人であり、元看護婦のAだった。
Aの部屋からは、エピネフリンという薬剤が見つかった。原液を二本も打てば、血管を破裂させ殺せるというもの。
解剖チームの人々や警察はAが犯人に違いないというが、以前から美枝とAの中の良さを知る青年は信じられなかった。
「美枝さんは亡くなる前に犯人にしがみついたらしい。Aさんの体のどこにもその跡がなければ無実が証明される」
そう話しかけるが、Aは隙をついて逃げていってしまう。青年はAを探し回り、Aたちが参るのを日課にしていた寺へと辿りつく。
そこで事情を知らない坊さんに話しかけられ、青年ははじめてその寺で祀られている仏像がなんなのかを知った。
仏像は「ポックリ観音」と呼ばれるもの。お願いしたら、痴呆が進んでしまうような状態まで生きずに、
眠るように楽に死ねるという信仰を集めているものだという。
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145 名前:本当にあった怖い名無し :2010/11/15(月) 16:54:09
- 寺の敷地内にAはいた。青年よりも早くに辿りついた、仲良し五人組の残りの三人もいた。
Aは腕にある傷を見せ、これは美枝につけられたもので、自分が犯人であると主張する。しかし、青年には気になる事があった。それは、美枝の髪につけられていた髪ピンのことだった。
医療従事者であるAが、美枝の生前に聞かされて知っていた金属アレルギーのことをうっかり忘れ、
髪ピンをつけて痕跡を残すようなヘマをするとは考えられなかった。
そしてもう一つは、美枝の両手についた皮膚片。
やっと出た鑑定結果を見たところ、皮膚片からは右手と左手で異なる血液型が出た。
その二つの血液型は、どちらもAのものとは一致しなかった。そんな事はいいから自分を犯人として警察に引き渡せ、そう言いだすAを他の三人は泣いて引きとめた。
そして、四人で共謀して美枝を殺したのだと彼女たちは自白した。
かつて、ホームには四人の姉のような存在の老婆・Bがいた。
BはAに言っていた。痴呆になりかけている自分が完全に呆けてしまったら、元看護婦のあなたがどうにかして殺してくれと。
でもAはそんな事はできなかった。Bはどんどん呆けて、まるで人間のようではなくなってしまった。
Bは冬の晩に徘徊して行方不明になり、翌日に凍死した姿で見つかった。野犬に食われて姿さえも人のようではなくなった。
あんなBの死に方を繰り返さぬよう、五人はポックリ観音の前で、誰かが呆けたらみんなで殺してあげようと約束した。美枝が珍しく点滴を大人しく受けたのは、事前に話し合った方法通りに殺してもらうため、針の跡をつけるためだった。
ホーム職員を傷つけてしまったことで、美枝は死ぬ覚悟を決めたのだった。
Aが美枝に注射を施した。急激な血圧の上昇に苦しむ美枝を放っておけず手を取った二人は、それぞれ傷を負った。
苦しみの中で乱れた髪を放っておけず、残りの一人は髪ピンを美枝につけてあげた。
犯行が露見しそうになり、Aは全ての罪をかぶろうと自分で自分の手に傷をつけたのだった。四人の老婆は逮捕されていった。
青年は、どんな姿でも生きるべきだと思ったが、でも何が正しいのかわからなかった。おわり