ホーム » 小説 » 小説/は行 » ひとつのタブー(星新一)

14 名前:本当にあった怖い名無し :2011/07/11(月) 22:16:16.35
星新一のショート・ショート、『たくさんのタブー』収録の「ひとつのタブー」。

ある諜報部員の男が、航空機の不時着事故で無人島に流れ着いた。
周囲に他の島影はなく、定期船の航路からも外れているらしく、救助の見込みは低かった。
しかし、浜辺の浅瀬では容易に魚が獲れ、調べたところ食用になる植物もいくつか有って、
当面生きていくぶんには支障が無かった。さらに、人恋しくなっていたところ
島の反対側の岸で、同じく航空機事故から流れ着いた妙齢の未婚女性にも出会った。
女は薬剤師だと語り、理知的な感じで、男は魅かれた。
男は身分を隠して電気製品のセールスマンだと自己紹介し、女と親しくなった。
諜報活動で電気製品の扱いは慣れているので、辻褄の破綻が起きないよう架空の素性話もできた。

かなりの月日が過ぎた。他に話し相手もいない中、
二人が会い愛し合う仲になるまでにさほど時間は要さなかった。
衣服は繕いようのないまま朽ちてゆき、さながら楽園のアダムとイブだった。
だが、秘密を隠し持って相手に嘘を吐いている、という後ろめたさが
心を許しきれない距離を作り、胸中のわだかまりになっていた。
いっそ全てを打ち明けたいとも思ったが、万一救助され祖国に戻った場合を考えると
一線を越えられなかった。そんな空気を察してか、女も次第によそよそしくなっていった。

そんなある日、女がウミヘビに噛まれて毒で重症となった。
医療設備もなく、自らの死を悟った女は、男に告白したい事があると言った。
「今までつれなくして、ごめんなさい。薬剤師というのは嘘で、私はとある国のスパイだったの」
「なんとなくそんな気はしていたよ。もういいんだ。君の本当の故郷はどこだったんだい?」
女は最後の力を振り絞って答え、息を引き取っていった。
女が答えた国名は―――――男の故国と同じだった。

 

たくさんのタブー (新潮文庫)
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