ホーム » 小説 » 小説/か行 » 家族八景/亡母渇仰(筒井康隆)

70 名前:1/2 :2011/08/06(土) 22:28:53.09
筒井康隆「家族八景」より
主人公七瀬はテレパス美少女、意識して他人の心のなかを読むことができる。
ただ、それによる弾圧や実験動物扱いを避けるために、それを他人に明かすことはない。
長く同じ所に勤めると、ひょんな拍子でバレてしまう可能性があるため、
職場が転々と移っても不審がられないお手伝いさんをしている。そんな七瀬から見た家族の連作短篇。

七瀬は葬式に出席していた。
というのも、彼女はそのなくなった老婆の看病のために雇われていたからだ。
その老婆は性格がとんでもなく悪く、心を読んで先回りして看病できる、
七瀬の理想的な看病にもいちいち文句をつけたり、嫌ごとをしたりしていた。

ただしその老婆は自分の息子にはとんでもなく甘く、仕事で嫌なことがあったといえば
まるで幼児に接するように甘甘な慰め方をし、同じベットで寝て慰める。
さらに既に亡くなっている旦那のコネで無理やり入社させた、その仕事場にクレームを付ける。

そのクレームを入れられる上司も、かつてその旦那には恩があったため、
事あるごとに揉め事を起こし、職場の空気を悪くするその息子を首にできない。

最悪なのはその息子に嫁いできた嫁で、結婚するまでは老婆も同居しないだの
住む家を建てるだの大事にするだのさんざん甘いことをいい、
いざ嫁に来たら息子に同居を迫り、七瀬にしたそれの数倍の嫁いびりをした。
老婆にとっては、大事な息子がほしがったおもちゃとして、その嫁をもらったわけであり、
自分の息子はあくまで自分の物、嫁なんかに渡すものかとまあそんな論法。

書かれたのは一昔前なので、その当時の価値観的にその嫁もすぐ離婚するわけにも行かない。


71 名前:2/2 :2011/08/06(土) 22:29:39.38
そんな老婆も寿命で死ぬ。
息子の嘆き様は半端なく、葬式の参列者も引くほど。
「あの息子、母親と寝てたんじゃね?」位に思ったくらい。
まあ別の意味で寝てはいたんだが。

衆目は一致して、これでその息子もようやく一人前になれるだろう、といったもの。
明らかにその息子のダメっぷりは、母親が甘やかし過ぎたためだからだ。

職場の上司は、これで恩は返した、今後は職場の結束を優先する。それを乱すならばクビにする、とサバサバしたもの。
嫁も、その父親も、これでようやく離婚させる事ができる、実家に帰れる、と周りは息子を見捨てる気で一杯。

七瀬はそんな参列者の心を読んで、酷い葬式だが仕方ないな、と思っていた。

そんな七瀬のテレパスに、妙な心の声が入る。しかしそれは生きている人間にしては弱い。
いったい何か、と思うと、どうも明らかに老婆の心の声だった。
どうも棺桶の中で息を吹き返したらしい。声を上げる事はできないが、
心の声は漏れでてきたらしい。

しかし「心の声が聞こえた!」と棺桶を開けさせるわけにも行かない。
そんなことをすれば七瀬が注意深く避けていた、テレパスだとバレる結果となってしまう。
そうなればどんな扱いになるか分かったものではない。

七瀬はしばしためらった後、結局見捨てることにした。
「あなたはもう死んだのだ、息子さんもそれで成長できるのだ」と。
棺桶は火葬場に運ばれ、焼かれていく。

生きながら焼かれる老婆の心の声。こればかりは原作を読んでくれとしか言いようがない。俺の筆力では再現できない。
七瀬は思わず念仏を唱え、心の扉を閉めて、その声を必死で閉めだした…

 

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