冠を持つ神の手

601 名前:本当にあった怖い名無し :2011/11/05(土) 05:22:32.20
主人公は田舎町で育ったが、母亡き後に実は王位継承権の持ち主だと判明、
本人の意思などおかまいなしに、いきなり王様の住む城に連れていかれる。
継承権を持つのは主人公だけではなく、帝王学を受けて育った生粋の王族もその一人で、
文字の読み書きすらできないほど教養のない主人公は、
今更継承権を持つなどと言われても王になどなれっこなく、
それどころか城に暮らすどの使用人よりも垢抜けないバカな子供で、
非常に居心地の悪い日々を送った。

継承権を持つ主人公を元の田舎にほいほい置いておいては、
今や存在が公になった主人公に危害を加えたり、利用しようとする者が現われかねない。
城の外で自由にさせることはできないが、かといって王にするには器量が不足していた。
つまりは主人公の立場は、城の中での飼い殺しといって良かった。

主人公につけられた侍女は、明るく優しいものの、鄙びた冴えない少女だった。
たどたどしいおかしな敬語で話し、主人公が暮らしていたのと同じような辺境の村で育った、
文字の読み書きがなんとかできる程度の、とても貴人に仕えられるような振る舞いはできない子だった。
下働きだった少女が侍女に任命された事について、城の人たちは、
「田舎者には田舎者」「身分があるといっても形だけのものだからあんなのをつけた」とやっかみ半分に噂した。
実際には、里心を残したままで慣れない城暮らしに戸惑う主人公のために、
働きに出てきたばかりで境遇の似ている人物を傍に置かせ安心させようという気遣いによる人事だった。

侍女がツテを辿って城に働きに来たのは、病弱な親と幼い弟妹たちを食わせるためというよくある事情のためだった。
同じように田舎出身という事で主人公は侍女に親近感を持ったものの、
侍女の方はその気になればいつでも故郷に帰れるという部分が大きく異なり、
金銭的なしがらみはあれど主人公に比べれば自由の身である彼女を、主人公はいつしか憎むようになった。

主人公は、侍女に高圧的にふるまうようになった。
マナーなど主人公もろくに知らないくせに、お前は出自も育ちも悪いからマナーがなっていない、
といったいちゃもんをつけまくっていびるようになった。


602 名前:本当にあった怖い名無し :2011/11/05(土) 05:24:00.03
侍女はなにかあるたびに平謝りで従うものの、そうそう本心を上手に隠せるタチではないため、
目に見えて傷つき憔悴し、主人公を憎むようになっていた。
見かねた年配の侍従は、相性が悪いのなら侍女を別の者に変えようかと持ちかけるが、
主人公は侍女を手放さそうとはしなかった。

侍女が故郷から送られてきた手紙を読んでいるのを見つけた主人公は、それを取り上げてビリビリに裂いて捨てた。
ひどく傷ついた様子を見せつつも、侍女は食ってかかったりせず去っていった。
侍女の家族は字が書けないので、その手紙は村の知識人が代筆して送ってくれたものだった。
手紙によれば、侍女の父は病気で死にかけているという。侍女の仕事の邪魔はできないから帰ってこなくともいいと言いつつ、
その実、父は死ぬ前に侍女の顔を見たがっている様子だという。
しばらくして、侍女は暇願いを乞うてきたが、主人公はやはりそれを認めなかった。

やがて、侍女の父の死を知らせる手紙が届いた。
いびられ続けている上に、父の臨終を見届けることも出来なかった事に憤った侍女は、
我慢の限界が切れ、主人公に襲いかかったが、非力な侍女では相手にならなかった。
一応貴人である主人公を殺そうとした罪は重く、引き渡せば極刑に処すこともできたが、主人公はそうしなかった。
取り押さえられたところから解放され、侍女は戸惑ったが
「情けをかけたつもりか、そんなので許さない、呪われてしまえ」と吐き捨て去っていった。
その日以来、侍女は行方不明となった。
侍女いびりにばかりかまけていた主人公に大した権力はなく、侍女を探しに人をやることもできなかった。

侍女が失踪してから数カ月がすぎ、主人公のもとに手紙が届いた。侍女の直筆による、たどたどしい汚い文字だった。
「もうわすれてしまっているんじゃないですか
 しろから出て、かなりたちました 追っかけられることがなくて、ほっとしています
 村にはかえっていません だから村に何かしてもいみないです
 むかしのこと、少しなつかしく思います
 そばにいて楽しいこともありました 今は思います、あなたはさみしい人だったんだなって
 あいさつもできずにいなくなってすみません おせわになりました」
二度と手紙は届かなかった


607 名前:本当にあった怖い名無し :2011/11/05(土) 13:02:13.25
冠を持つ神の手だな、これは。サニャはいいメイド。
この憎悪EDも確かに切なくていいけど、後味の悪さなら
もういっこの憎悪EDもなかなか。

主人公は侍女に「愛してる」と告白し、侍女は迷うものの
主人公を愛してその想いを受け入れる。
だが実は主人公は歪んだ愛憎を侍女に向けていた。

王になることが決まり、侍女を自分の傍に縛りつけるための力を手に入れた、と
喜ぶ主人公は結婚式の前「まるで夢みたい」と幸せそうに微笑む侍女を見て
(夢には違いないだろう、良い夢とは限らないが)なんてほくそ笑む。

そして主人公の正体に気がついても侍女が逃げられないように
帰る場所を失わせようと、彼女の故郷の村をつぶすことを決意する主人公。

EDロールで一文だけどその後の侍女の末路が書かれている。
「(平民なので)貴族社会からの厳しい責めもあってか、若くして命を落とした」と。