かぶら

649 名前:本当にあった怖い名無し :2012/08/04(土) 14:25:45.75
昔、中国の山地に一人の爺さんが住んでいた。
日々せっせと蕪を作って暮らしていたが、
隣に住む意地悪な金持ちが、せっかく爺さんの作った蕪を
家畜に食べさせてしまうのだ。
爺さんは日々家畜を追い払ったが、金持ちは面白がって
「そらいけ、そらいけ」と豚をけしかけるので、稼ぎは少なかった。
ある時、爺さんのまいた種のひとつが大きくなり、大きな蕪になった。
爺さんは「お前は隅っこにいたから、豚どもも見落としたんだろう」と
ことさら大事に育てた。
隣の金持ちは「そら、あれも喰っちまえ」と豚をけしかけたが、
爺さんの作った柵のせいで食べられなかった。

650 名前:本当にあった怖い名無し :2012/08/04(土) 14:28:17.14
半年ほど経つと、蕪は爺さんの家ほどに大きくなった。
ある時役人が通りかかり、「このかぶらを、皇帝陛下への貢物にする」と言い放った。
「そんな、わしは何を食べればいいんでっか」
「うるさい!お前の食べるものなど知るか」
爺さんをかわいそうに思った近所の人が、
「爺さん、皇帝陛下はきっとなにか素晴らしい贈り物をくださるよ。
 だから気を落とすんでないよ」と慰めた。
巨大な蕪は、皇帝陛下の80歳の誕生日の贈り物になった。
役人の添えた手紙には、皇帝のおかげで民は飢えずに暮らしていること、ご長寿をお祝いしますと
書かれていた。
皇帝は自分の政治が良いのだとほめられたことが嬉しくなり、
大きな蕪を広間に置いて鑑賞することにした。

651 名前:本当にあった怖い名無し :2012/08/04(土) 14:30:32.52
しかし、何日かすると蕪は腐ってグチョグチョになった。
始末に困った皇帝は、どう捨てようか迷い始めた。

その頃、隣の金持ちは爺さんが皇帝から褒美の宝石をもらったのを
羨ましがっていた。
「俺も何か皇帝陛下に差し上げれば、もっといいご褒美がもらえるかもしれん」
しかし、金銀宝石は皇帝も持っている。もっといいものを…
「娘だ!娘をさし上げることにしよう!」
金持ちには美しい娘が一人いた。
既に婚姻も決まり、家を継がせることに決まっていたが、金持ちは
褒美ほしさにこの結婚を取りやめた。
指折り数えて婚礼の日を待っていた娘は、
「嫌です、皇帝なんかもうおじいさんじゃありませんか」と嫌がるのを
無理やり皇帝のところへ連れて行った。


652 名前:本当にあった怖い名無し :2012/08/04(土) 14:33:15.39
娘はなかなか美しかったので、皇帝は何か褒美をやろうと考えた。
「しかし、金銀宝石など、あの者も持っているだろう…」
ふと、広間においてある腐りかけの蕪が目に入った。
「そうだ、これをやろう」
元々始末に困っていたのもあり、蕪はすぐに金持ちの家に届けられた。
金持ちは、大事な娘を蕪と取り替えたことになってしまった。

 

完訳 グリム童話集〈4〉 (岩波文庫)(類似話収録)
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