お玉熱演(筒井康隆)

732 名前:本当にあった怖い名無し :2012/08/06(月) 13:10:33.27
筒井康隆「お玉熱演」

お玉は歌手志望のブス。芸能学校に通いながら、パチンコ屋で働く。
四畳半のアパートで南京豆をかじりながらテレビを見て、
「なんやあの音痴。アテ(私)のがよっぽど歌えるで」
と愚痴るのが唯一の娯楽。

ある日、テレビ局スタッフを名乗る男が訪れる。
「○田玉枝さんですね。ナントカ芸能学院のご紹介で参りました。さあ今すぐ撮影を」
「ま、まってェな。アテ、こんな格好で恥ずかしいワ。友達とオカンにも言わなあかんしイヤーどないしよ」
「来るんですか来ないんですか。候補は他にもいるんですよ」
時は真夏。普段着のアッパッパ姿で汗だくのお玉の手を引いて、男は強引に車に乗せた。
手を掴んだ拍子に、吹き出物が潰れて膿がついたが、男は気にする様子もない。

スタジオは掘っ建て小屋に、画像合成用のブルーシートを垂らした殺風景なものだった。
お玉は男の指示通り、歌って踊って一人芝居をする。
南京豆を食べ過ぎたお玉のお腹がゴロゴロ言い出した。
スタジオの便所は、どぶ川の上に突き出した粗末なものだった。
お玉は汚い水面を見下ろしながら泣いた。

実は男は、未来世界から過去の人間を撮影に来たテレビスタッフだった。
「視聴者はこんなのが面白いのかねぇ」
「この時代の奴らが猿回しの猿を面白がったようなもんだろ、キニスンナ」


733 名前:本当にあった怖い名無し :2012/08/06(月) 13:19:12.59
けっこうな後味の悪さなのに、文章の歯切れ良さに吹いた

 

ベトナム観光公社 (中公文庫)
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