月の光(W・ハイデンフェルト)

843 名前:1/2 :2012/12/05(水) 12:51:37.21
W・ハイデンフェルト「月の光」

休暇中の兵隊でいっぱいの列車が、夜のイングランド中部を走っていた。
兵隊たちは飲んでは喋り、歌い、ハーモニカを吹き、疲れるとコンパートメントに戻っていった。
がらんとした食堂車には、大尉の制服を着たぱっとしない娘と語り手だけが残った。
語り手が話の継ぎ穂を探して、
「美しい満月ですね」
と言うと、娘はしばらく黙ってから話し始めた。
「ちょうどこんな夜でしたわ、私が恋人を国家に捧げたのは」

…どうしても誰かに話しておきたい。ただ聞いてくれるだけの誰かに。
友達は駄目、すぐ同情するから。あなたは友達じゃないから丁度いい。

娘はある秘密部隊の曹長だった。仕事は充実して楽しかったという。
そのうち他の部隊の恋人ができた。
彼は他人の美点を見抜く能力があり、上司の少佐(娘から見ると平凡)を誉めちぎるのだった。
そして常々、スパイは情報を少しずつ、うっかり漏らした言葉や目配せなどから集めるものだ、
と言っていた。


844 名前:2/2 :2012/12/05(水) 12:52:40.43
ある夜、公園で語り合ってと言うか恋人の話を聞いていると(話題は例の少佐のことばかりだったが)、
彼は満月を振り仰いで言った。
「彼、素晴らしいと思いませんか?…勿論、うちの少佐の事ですよ」
(娘は月光が作る影に見とれて、彼の演説を聞き逃して「ごめん、誰のこと?」と訊き返していた)

恋人の言葉と態度を何度も反芻した娘は、秘密保持担当士官に事実をありのままに伝え、
娘が感じたことも全て伝えた。
恋人はドイツのスパイで、絞首刑になった。

…娘は制服の三つ星を指して言った。
「私は報酬を得ました。私はユダですわ。戦争なんか大嫌い!」
「私はドイツ語を裏の裏まで知り尽くしています。だから秘密部隊に配属されたんです」
「白人の言語の中で、月を男性代名詞で指すのはドイツ語だけなんですよ」 


855 名前:本当にあった怖い名無し :2012/12/05(水) 21:24:26.92
>>844
> 「彼、素晴らしいと思いませんか?…勿論、うちの少佐の事ですよ」

ちょっとニュアンスが分かりにくいから聞くんだけど、
間の「…」に、よく考えると明らかに「月」のこと言ってたのに、
少佐の話と取り繕って誤魔化すような態度が表れてたってことでいいんだよね?
多分、その微妙なさりげない所がポイントなんだろうから聞くのは野暮なんだろうけどw


857 名前:本当にあった怖い名無し :2012/12/05(水) 23:19:36.78
>>855
最初恋人はガチで少佐のこと言ってたのに思い込み
(と少佐のことばっかり話すことへのイラツキ)から
月のことを言ってたとそれらしい説明付けて売ってやったっていう話で
後味が悪いのかなと思った

858 名前:本当にあった怖い名無し :2012/12/05(水) 23:25:01.42
>「彼、素晴らしいと思いませんか?」

クラブで踊ってから公園に行ったので、娘は月光が作る影に見惚れながらうとうとしてた。
で、話の継ぎ穂にこれを言われて聞き返した。
御推察の通り、慌てた様子を怪しみ「そーいや他にも違和感あったわ」
となった。

手紙を書く相手がいない所、小さな村で生まれて南アフリカで育ち、
開戦直前にイングランドに帰国した(という身の上話)わりに視野が広い所。


859 名前:本当にあった怖い名無し :2012/12/06(木) 00:07:10.14
>>858
それ書くのと書かないのではえらい印象違うね

 

ミニ・ミステリ傑作選 (創元推理文庫 104-24)
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