ホーム » 小説 » 小説/か行 » 孤独なカラス(結城昌治)

918 名前:1/3 :2012/12/07(金) 20:54:33.52
結城昌治「孤独なカラス」

ある町の大きな公園で乞食女が殺され、続けて幼女が一人殺された。
どちらも首を絞められ、腹を切り裂かれていた。
どちらの事件も、死亡推定時刻の前後に公園でカラスの鳴き声がした、という証言があった。
とある万年刑事、出世には無縁だが所轄内のことは誰より詳しい刑事が、
一人の少年のことを思い出した。
薄汚れたその少年は、カラスの鳴き真似が上手で「カラス」と呼ばれていた…

…少年は学校にめったに行かず、四畳半の風呂なしアパートに母親と二人暮らしだった。
酒場勤めの母親は夕方出掛けて夜半まで帰らず、時には昼まで帰らなかった。
学校に通っていれば小学四年生のはずの少年を、
「お前が学校に行かないとあたしが役人に叱られるんだよ…
 まったく父親に似て薄気味悪い子だよ」と言うだけで放置した。

少年は爬虫類と虫が好きで、ポケットにはいつもシマヘビや青大将がとぐろを巻いていた。
独り言を言いながら器用に竹ひご細工の虫籠を作り、そこら辺の子供にくれてやるのが常だった。
そしてカラスの鳴き声を真似しながら、元は素封家の庭園だった公園をふらふらしていた。


919 名前:2/3 :2012/12/07(金) 20:55:53.00
少年の父親は流れ者の理髪師で、結婚してから仕事をせずに一人で罵声を上げては
物に当たり散らすばかりだったが、不思議なことに妻には暴力を振るわなかった。
少年が五歳の時、父親は自殺した。

少年は小学校に上がる直前までは正常で、むしろ物覚えがよかった。
小学校に上がって間もなく、滅多に口を利かなくなり叱られるまで顔も洗わず、
ニヤニヤ笑うことが多くなった。
そして、母親に
「人間は昔は蛇だったんだよ。だれだか知らないけど頭の中で言ってるよ。
 死んだら蛇になるんだよ」
「お父さんも蛇になったんだよ。あやまってるのに許してくれないんだ」
と言うのだった。
母親は、気色悪い子だよ、と言うだけだった。

結論から言うと、少年は父親から遺伝した統失(当時の病名はは精神分裂病)で、
幻覚と幻聴にそそのかされて乞食女と幼女を殺したのだった。

乞食女は「おしゃれ気違い」と揶揄される中年女で、
町の連中が面白半分に与えた化粧品を塗りたくった顔は醜いわけでもなく、
精神病院に保護=収容された時に堕胎させられたこともあった。
乞食女は少年にいたずらをした後で殺され、腹を裂かれた。
(はっきりとは書いてないが、少年はいたずらされて射精したと推測できる)


920 名前:3/3 :2012/12/07(金) 20:56:58.08
幻聴と会話する少年。
『お前は臆病者だ。ちゃんと見なかったな』
見たよ、お腹の中に蛇なんかいなかった。汚くて臭くてぐにゃぐにゃしたのが入ってた。
『臆病者だから怖くなってちゃんと見なかったな』
違うよ、僕は臆病者じゃない。女の子が泣いたときだって平気だったもの。
『お前は臆病者だ。いつだって逃げてばかり』
悪口言われるのが嫌なんだ。みんな僕の悪口を言うんだ。
ほら、校庭で遊んでるやつらが笑った。僕を蛇男だってバカにするんだ。
『みんな蛇だ。腹の中には蛇がいっぱい詰まってる。お前の蛇は悪い蛇だから嫌われるんだ』
…人間は蛇で、女の人のお腹にいっぱい詰まってて、生まれたら人間の姿になる。
死んだら蛇に戻って、アフリカやインドに行って、また女の人のお腹に入って、
また生まれたら人間になるんだ…

刑事は公園で少年を見つけた。
少年は1mあまりの青大将を振り回し、石に叩きつけていた。
「カラス!おい、カラス!」
刑事が叫ぶと、少年は意味のない笑いをニヤリと笑った。終。

 

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