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4131/4:2012/12/26(水) 21:17:09.95
小松左京「静寂の通路」グロ注意。

近未来の東京。蒔田の妻、京子は二度目の流産をした。
病室を見舞った蒔田は、
「僕と田村、どっちの子なんだい?」
と悪気なく言う。
京子は、
「こんな時にひどいわ、今度は間違いなくあなたの子よ」
と言う。
夫婦が互いに”婚外セックス”の相手を持つ事は普通だった。
田村は蒔田の友人で、冷静で貫禄とあたたかみがあり、蒔田の嫌いなタイプではなかった。
京子が婚外セックスの相手に田村を選んだ時、彼ならいいかな、と蒔田は思った。

蒔田と京子は二年前に三歳の息子を亡くしていた。
息子は生まれた時は元気だったが半年頃から発育が遅れ、二歳になっても立つ事ができなかった。
言葉も遅く、手足がひょひょろと細く、京子に似て可愛らしい顔立ちだがやけに頭が小さく、
三歳を過ぎて急にひきつけを起こして死んだ。
医者は、最近増えている突発性代謝障害だと言って慰めた。

養子も代理母も嫌がった京子は、人工子宮での出産に積極的になった。
卵子を三個採取し、一つは薬物で増殖させ、過程を精密にトレースする。
一つは第三者の健康な精子と授精させて、過程を精密にトレースする。
蒔田の精子を第三者の健康な卵子と授精させて、過程を精密にトレースする。
三つともクリアすればどちらも正常なので、いよいよ夫婦間で授精させる。


4142/4:2012/12/26(水) 21:18:14.11
受精卵が二つに分裂すれば、片方は観察用人工子宮に着床させて経過を観察する。
もう片方が本命で、これは本番用人工子宮に着床させる。
受精卵を観察、すなわち可視光線を当てることはよくないと判明しているので、
観察用の方から類推するのだ。観察用の胎児は五ヶ月頃に廃棄される。

京子は受精卵に名前をつけて、毎日”面会”に通った。
医者は蒔田にこっそり、成功率は30%以下だと告げた。

蒔田は婚外セックスの相手に、人工子宮を依頼した病院の看護婦、良子を選んだがすぐに破局した。
21歳の良子の巨乳巨尻を見て、元気な子を生めそうなのに…と、蒔田は残念でならない。
良子は12歳からセックスを楽しみ、顔と体どころか膣まで整形した 普 通 の 女 である。
京子の事を、わざわざ子供を欲しがるなんて変わってる、
役所が卵子を欲しがるならいくらでもくれてやるが妊娠して体型が変わるのは耐えられない、
赤ん坊なんてギャーギャーわめく汚い生き物、とせせら笑う。
このがさつな物言いが破局の原因だった。
「うちの病院の人工子宮、保育器に移せるまで成長した例はないのよ。
赤ちゃん、元気に育つといいわね。さよならアラサーおじさん」

蒔田は思い出した。
流産した京子を見舞った日の違和感、産科病棟なのに赤ん坊の泣き声がなかった事を。
最初の子が生まれた時は違った、赤ん坊の泣き声や母親の笑い声、
若い父親の照れ笑い、健康そうな若い妊婦の姿があった。
あの日の産科病棟には、土気色の顔をした妊婦が数人いただけだ。


415 3/4:2012/12/26(水) 21:19:23.51
蒔田は出張で地獄を見た。
勤務先が過去に造成した土地をボーリング調査すると、
有機水銀・有機弗素・鉛・カドミウム・プルトニウム・ナフサ
その他の炭化水素化合物を含んだ汚泥が噴き出した。
調査の結果、冠土と工事による地圧で地下水脈の流れが変わり、
近郊の農地で数十年かけて土壌に染み込んだ、今は禁止された殺虫剤や化学肥料が流れ込み
、昔の化学工場跡地の残存物と混ざって未知の化学反応が起きた…と推測された。
「俺たちは20年も昔の奴らの尻拭いをさせられたんだ!」

20年がかりの公害対策が実を結び、スモッグは消え川の流れは澄んだ。
代替エネルギーの開発が進み、普通車は平均20km/hの電気自動車にかわった。
緊急車両は 6 0 km/h と い う 高 速 を出せる特殊なものだ。

出張から戻った蒔田は、京子と田村のセックスを目撃した。
京子は、人工子宮の胎児が死んだ事を理由に離婚を切り出した。
蒔田は拒んだ。京子がいないと自分は不完全な人間だ、子供は養子を迎えればいい。
京子は泣き崩れた。

養子を考えた京子が見学に行った施設には、健常児は一人もいなかった。
性器だけ一人前になった三歳の男児が、同じように性器だけ一人前になった二歳の女児を犯していた。
二歳の女児が産み落とした奇形の小さな胎児が、機械に繋がれて生かされていた。


416 4/4:2012/12/26(水) 21:20:59.34
厚生関係の技官である田村は言った。
先進国で出生率が急激に下がっている。
不妊や流産が増えている。
やっと生まれた赤ん坊はほとんどが発育障害で、四歳まで生きる事は滅多にない。
死んだ赤ん坊の脳や脂肪組織から有機塩素や砒酸塩、放射性物質が発見された。

数十年前の連中がやたらとばらまいた化学物質が生体濃縮で蓄積され、
混ざり合ってわけのわからない有毒物質が合成されたのだ。
公害対策は遅かった、だが彼らを責めるわけにはいかない。
彼らはよりよい社会を作ろうとしただけなのだ。

産科病棟の静かな廊下で、蒔田は思った。
俺たちは12~3歳でピル(男性用ピルも開発された)を服用してセックスを楽しみ、
30を過ぎて、あるいは妊娠してやっと子供の事を考える。
子供を欲しがっていた京子は例外だ。
京子が見た奇形児は幼生生殖というやつかもしれない。
遺伝子は人間よりしたたかだ、人間の形を捨てても生き延びようとするのだろう。

蒔田は田村に言った。
飼っていた金魚が死んで、それを食った猫が死産し、
死産した胎児を食って数日して死んだ。何か関係があると思わないか?
田村は言った。
くわしく聞かせてくれ。何か手がかりになるかもしれん…


419 本当にあった怖い名無し:2012/12/26(水) 21:46:49.21
>>413-416
アイディアの元がレイチェル・カーソンの「沈黙の春」だったか。
題名は「赤ん坊の泣き声が聞こえない産科病棟」を意味する伏線。
除去されたはずの残留汚染物質(環境ホルモン)による
「人間の」(ミュータントとしては残るかもしれないが)生殖機能の致命的破壊がテーマだけれど
これが書かれたのは1970年、今から42年前なんだよな。

425 本当にあった怖い名無し:2012/12/27(木) 01:44:09.05
>>419
4~50年ぐらい前は日本も公害が社会問題になってたよね。
水俣病とかイタイイタイ病とか光化学スモッグとかさ。

426 本当にあった怖い名無し:2012/12/27(木) 01:50:27.80
>>416
あれ、これで終わりかな。まだ続きがあるなら気になる。
小松左京はこのスレ頻出だけど、リアルな気味の悪さが良いね。

 

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