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587名無し:2013/02/04(月) 21:25:57.21
重松清「扉を開けて」

主人公はケンタと名付けた子供を亡くした夫。
まだケンタが生後間もない頃、妻が少し目を離した隙に
乳幼児突然死症候群のような症状で亡くなった。
夫妻は結局次の子も作らず、子供を持つことを諦める。

それから6年の月日が過ぎる頃、夫妻の住むマンションにある一家が越してくる。
その一家の構成は主人公たちと同じ年頃の夫婦と一人息子健太(六才)。
平凡な家族構成だが、自分たちの亡くした子供と同じ名前(字も同じ)、
同じ生まれ年のこの少年が夫妻の、特に妻の心のバランス狂わせていく。

やんちゃ盛りでサッカーが好きな健太は、日曜の朝になると
マンションの廊下の突き当たりにある鉄扉をゴールにみたてて、
一人サッカーに興じるようになった。
この鉄扉の向こうは屋上に続く階段で、普段は施錠されていた。

角部屋である夫妻の部屋は、この鉄扉のすぐ側で、
ボールが扉を打つとその音が部屋中に響き渡った。
その音に苛立つ妻、宥める主人公。これが「健太」という名ではなく、
あるいは六才の少年でなければ役割は逆だったろう。
休みを邪魔され苛立つ主人公、宥める妻でいたはずだ。

しかし、そこで無邪気に遊び回る少年が亡くなった我が子と同じ名前で、
同じ年の生まれであるために妻は精神のバランスを崩し、健太に憎しみすら抱くようになる。
一方で主人公は、健太に注意しようにも叱り方が分からない。
それどころか無邪気な健太に父性すら覚えてしまうようになる。
妻はそんな主人公の姿を見てさらに不安定になる。

そしてついに健太一家とトラブルになる主人公夫妻。(妻が健太に怪我をさせた)
トラブル自体は収拾がついたが、健太のサッカーはそれからも続いた。
妻の精神状態はいよいよ病的になり、それを支える主人公も限界に近づいていた。


588名無し:2013/02/04(月) 21:32:14.12
そんな二人に転機が訪れた。それはマンションの管理人から
ひょんなことから例の鉄扉の鍵を預かったことだ。
朝になると妻は健太のサッカーをやり過ごすために屋上に避難するようになった。
主人公は、妻が屋上にいることに不安はあるもののそれで気が紛れるのならと黙認。

そして主人公は主人公で部屋で一人記憶の中のケンタを呼び戻そうとする。
それを打ち破るように響くボールの音。思わず苛立って廊下に出ると、
健太がボールを抱えたまま鉄扉を見て首を捻っている。
「今この扉ちょっと動いた気がする。」
健太は好奇心のままにドアノブを捻って扉を開けてしまう。
屋上に続く階段に歓声をあげて扉の向こうに消える健太。
主人公も慌てて後を追おうとノブに手を掛けるが、ノブを回すことなく手を離してしまう。

再び部屋に戻る主人公。
今まで曖昧だった記憶の中のケンタの姿がはっきりしてくる。
主人公の心に平穏が戻る。

部屋の窓の向こうに何かが落ちていくのが見えたが、
それがサッカーボールなのか手足をばたつかせた子供なのかは分からない。
ただ、主人公によく似た幻の男の子がこちらを見ているだけだった。

健太一家に落ち度があるとはいえ、このラストの落下物が
健太でないことを願わずにはいられなかった。
健太がかわいそうってのもあるが、何より健太のサッカーを終わらせても
主人公たちが永遠に救われないのがやりきれない。

 

見張り塔からずっと (新潮文庫)
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