隻眼の少女(麻耶雄嵩)

4151/3:2013/03/13(水) 17:03:08.05
麻耶雄嵩『隻眼の少女』

洪水を起こす竜を倒した少女伝説と
その子孫の女性を生き神とあがめる「スガル様」信仰と
それとは全く関係のない、悲恋の末入水自殺した少女の伝説が残るとある山村。

後者の伝説になぞらえて死のうと決め村を訪れた自殺志願者の青年「種田静馬」は、
知る人ぞ知る「隻眼の名探偵」を母親に持ち、
その名を継いだ「御陵みかげ」という少女と出会う。
亡き母同様の水干姿で隻眼に翡翠の義眼を嵌めた彼女は
父親とともに修行の旅を送っていた。

数日後、当代の「スガル様」の長女で後継者にあたる少女が惨殺される事件が起こる。
現場に足しげく通っていたことと、遺留品から静馬が疑われたが、
みかげによって助けられる。
そしてこの事件を娘のデビューにしようともくろんだ父親の交渉で、
そのまま真犯人を探すことになる。

災厄が起こる周期とされる年が迫る中、
病弱なスガル様は次代への早期継承を望んでいることや、
村の名家の複雑な人間模様が分かったものの、
糸口がみえぬまま今度は三つ子の次女が殺害される。
二番目の事件の状況から犯人を推理し、解決したかに思えたが、
残った三女と、みかげの父親も殺害されてしまった。

推理の誤りと父の死にショックを受けるも、
静馬の献身(肉体関係込み)で立ち直ったみかげは、遂に真犯人を突き止める。

それは三つ子の母であるスガル様だった。
動機は初代より受け継いだ力は次世代の娘よりも、
同じ世代の妹のほうが濃い、という理屈に気付き、
来るべき災厄を乗り切るには妹に継がせるしかないと思い込んでの凶行だったのだ。

4人も殺され、犯人に自殺をも許したものの初仕事を解決したみかげは、
静馬に別れも告げぬまま村を去っていった。
みかげのパートナーとして生きる希望を取り戻しかけていた彼は、改めて死を決意した…


4182/3:2013/03/13(水) 18:00:43.86
18年が過ぎた。別の場所で飛び込み自殺を図るも死にきれず、
記憶を失った静馬は別人としての人生を過ごしてきたが
偶然テレビで事件があった村の映像を見たことで記憶が戻り、
またみかげ(2代目)が殺されていたことを知る。

みかげの供養をと思い村を再訪した静馬は、
そこで母親そっくりな、やはり同じみかげという名の彼女の娘と出会う。
やはり同じ和装で、しかし眼は両方とも見え片方だけカラーコンタクトの少女と
みかげ(2代目)の思い出を語り合うが、そんな中で、18年前と同じ状況で
スガル様(先代の妹)の娘たちが殺されてゆく事件が起こる。

同一犯の仕業で母親の推理が間違っていたのなら自分がそれを解決せねば、
と決意したみかげ(3代目)は、18年前も現在の事件も犯人によって
無数のミスリードが仕込まれているのを逆手に取り、
間違った推理した振りを警察や「犯人役」と示し合わせて真犯人を罠に嵌めようとする。

そしておびき出された(みかげが薄々察知していた)真犯人とは…

実の母親であり、死んだと思われていた2代目みかげその人であった。


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18年前の事件の真相は、妻であり心酔する「御陵みかげ」を亡くし、
片目を潰してまで娘を代替に作り変える執念に囚われた父への復讐だった。

ただ、みかげ(2代目)自身も母の後継者にはなりたかったので、
父殺しの犯人として捕まるのも、未解決で終わるのも都合が悪い。
そこで、この村に残るお誂え向きの伝承と風習に基づいた連続殺人をでっち上げ、
その巻き添えを装って父親を排除、同時に自らの手でこの事件を「解決」してみせる
マッチポンプで探偵デビューの契機とする一石二鳥の策略であった。

静馬が最初容疑が掛かることも、調査を通じて信頼が芽生え最終的に彼に抱かれたことも
当然彼女の狙って仕向けたことで、彼を自殺志願者と看破した上で、
後継者になる実子は欲しいが「父親」は不要なので、体のいい「種馬」に利用したのだった。

視力が低下して探偵を続けられなくなった彼女は、
自身の死を装った上で娘をデビューさせる算段を立てていたが、
彼女(3代目のみかげ)がこの村で実父・静馬と出会ってしまったことから、
18年前の事件を再現し今度は彼を排除しようとしたのだ。
娘が真相にたどり着き、探偵としての能力に申し分ないと認めたみかげ(2代目)は、
満足して服毒自殺を遂げる。

残されたみかげ(3代目)は、今度は母の名声のみならず悪名をも背負うことを覚悟の上で、
名前と探偵業を受け継ぐことを決意した。
そして静馬も、そんな彼女を父親として支え続けることを誓うのだった…。

 

隻眼の少女 (文春文庫)
隻眼の少女 (文春文庫)