装飾評伝(松本清張)

2921/2:2013/04/24(水) 09:51:32.97
松本清張「装飾評伝」

奇矯な言動と尊大さで知られる天才画家Aと親友のB。
BもAのサークルに所属した同人だが、腕は三流で画壇にはたいした足跡を残さなかった。

Aは若いうちからいい画商がつき、画壇で持て囃された。
晩年はなぜかろくな仕事ができず、各地を放浪して酒色にふけり、
金に困って「売り絵」を描くまでに落ちぶれた。

元々腕の差はあったが、BはAの天賦の才能に打ちのめされて
ろくな絵が描けなくなった、という評判だった。
Aは40代で死んだが、Bは70代まで生きてAの評伝を書いた。
「Aの評伝の中で最も正確。ほとんど唯一無二の傑作」
と絶賛されたこの評伝一つでBの名は記憶されている。

…いくら詳しい評伝でもAの全てが書かれたわけではない。
読む者が読めば「Bの目配せ」「Aの本当の姿」がわかる。

評伝によると、BはAのアトリエに単身で、或いは妻を伴って足しげく通った。
Bに娘が生まれるのと前後して、Aはなぜか麻布のアトリエを引き払い
当時はど田舎だった青梅をわざわざ選んで隠遁した。
Bはそこにも幼い娘を連れて足しげく通い、スランプで酒に溺れ画風が崩れたAを励ました。


2932/2:2013/04/24(水) 09:54:28.15
…AとB妻は不倫していて、Bはそれに気づいていた。
生まれた娘は明らかにAの種とわかる顔だった。
Bは「罪の証拠」を見せに青梅まで通った。
不倫妻は娘が三歳の時に離縁され、その後自殺した。

「俺もやっと父親になれた。次は君の番だ」
「早く嫁をもらいたまえ、子供を持つというのはいいものだ」
「可愛いだろう。目元なんか俺そっくりだと思わないか」

罪悪感で追い詰められたAは各地を放浪して酒色に溺れ、財産を食い潰した。
この時期の「売り絵」はAの画風とは程遠い駄作ばかりである。
Aはスランプから立ち直ることなく、北陸の断崖から墜ちて死んだ。
事故死として処理されたが、画壇では自殺と見なしている。

圧倒的な才能の差に怯む事なく親友を支え、スランプから立ち直らせようと励ましたB。
評伝を読む者は二人の交遊に心を打たれずにはいられまい。

実際は、寝取って不倫の子を産ませたせいで親友の妻は婚家を追い出されて自殺。
親友は不倫に気づかず托卵娘を自分の種と信じて可愛がっている(気づいてるけど)
奇矯で尊大な天才とはいえ罪悪感で自滅したのと、Bのねじまがった復讐心が後味悪い。


294 本当にあった怖い名無し:2013/04/24(水) 12:17:39.57
読む人にもよるだろうけど
俺はBに感情移入しちゃって復讐果たせてスッキリ

295 本当にあった怖い名無し:2013/04/24(水) 13:58:20.61
別に意図的に不倫させる為に妻を伴ってた訳ではないんだよね?
可哀想なのは子供だな、その後が気になる

296 本当にあった怖い名無し:2013/04/24(水) 14:43:48.79
Aを題材に小説を書こうとした作家目線で進む話なんで、はっきりとは書かれてない。
外遊帰りで日本の伝統的な美を面白がっていたAは「古風な女」であるB妻に興味を持ち、
そのうち芸者や舞妓を題材にした、と評伝にあるので、作家はB妻を芸者あがりだと思った。

B娘はちゃんと(?)成人して結婚して、Bが遺した世田谷の小さな家に住んでいる。
取材に訪れた作家を冷たく拒絶したので、作家はB娘は亡父を良く思っていない、と思った。

作家が取材した高名な画家は、
「押すなよ!絶対押すなよ!Bはあの評伝に全部書ききったんだからな!今さらほじくり返すなよ!」
的な含みのある言葉を返した。

 

黒地の絵 (新潮文庫―傑作短編集)
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誤差―松本清張短編全集〈09〉 (光文社文庫)
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