お勢登場(江戸川乱歩)
-
323:1/3:2013/09/01(日) 22:16:17.02
- 江戸川乱歩「お勢登場」
格太郎は肺病やみで寝たり起きたりしている。
女房のお勢は病気の父親を見舞うと称して家を空け、不倫を楽しんでいる。
弟の格二郎は不甲斐ない兄を責め、不倫汚嫁なんか追い出してしまえと言うのだが、格太郎は
「でもねえ、俺は肺病でどうせ長生きできない。子供から母親を奪うのはどうもねえ」
と煮え切らない。
格太郎は美しく熟れたお勢に執着していて、お勢もそれを知っている。お勢がまた逢引きに出た日、
一人息子の正一が友達を連れてきたので格太郎も一緒にかくれんぼをした。
書斎の押し入れの古い長持に隠れたが、
子供たちが焦れているので出ようとしたが掛け金が下りてしまって出られない。
-
324:2/3:2013/09/01(日) 22:17:26.15
- 分厚い板の四隅に金具を打った頑丈な長持の中、書斎は家の一番奥まった場所にある、
お勢は留守、子供はかくれんぼに飽きて庭で遊んでいる、女中二人は台所。
堅牢な造りの古い長持ちは今時の物と違い、蓋がぴったり閉まる。
肺病やみの格太郎は息が苦しくなってきた。お勢は三時過ぎに帰宅した。
書斎の隣の自室で着替えている途中、かすかな物音がしたので
襖を開けてみると、長持から夫の声がする。
子供とかくれんぼをしたのか、とわかって掛け金を外して
蓋を持ち上げてやったお勢は、いきなり蓋と掛け金を戻した。
こういう悪事をとっさに働くというのは、生まれついての悪女にしかできない事である。
(大丈夫、女中どもは何も知らない。大丈夫…)
-
325 :3/3:2013/09/01(日) 22:19:44.28
- 格太郎の死体は夜になってやっと発見された。
長持の蓋の裏側は無残な掻き傷だらけで、一際大きく
オ セ イ
の文字がある。
「義姉さんのことですね」
「……………それほどまでにあたくしの事を、心配してくだすったのでしょうか」
嘘泣きするお勢を見て、格二郎はその文字を
中途で終ったダイイング・メッセージではないかと疑うことなく、お勢に同情した。愛人と別れたふりをしたお勢は予想外の分配金を受け取り、
屋敷を売って息子と二人各地を転々として親類の監視を逃れた。
お勢は長持ちをもらい受け、ひそかに売り払った。
次の持ち主は、蓋の裏の傷と「オセイ」の文字を見て何を思うのだろうか…
-
326 :本当にあった怖い名無し:2013/09/01(日) 22:55:56.26
- そんなところに隠れるのが馬鹿なんじゃないの
-
328 :本当にあった怖い名無し:2013/09/02(月) 00:10:31.04
- 乙、読んでみたくなった
昔の作品って上手いこと立ち回って罰されることなく
悪事をはたらく悪女が多い気がするわww