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7511/6:2013/10/08(火) 10:35:11.44
ロアルト・ダール「首」

父が亡くなり、40を過ぎて爵位と大新聞社を受け継いだタートン卿は、
素性の怪しい外人女と電撃結婚した。ロンドン社交界の牝狼ども、激怒。
夏の社交シーズンが終わったので、冬の社交シーズンまでは「獲物」に手を出さずにおきましょう、
と紳士協定ならぬ淑女協定を結んでいたのだから。

タートン卿夫人は、現代芸術の蒐集が唯一の趣味のタートン卿のみならず
卿が主催する大新聞まで完全に牛耳っている。
他紙で社交欄を担当している「私」から見た夫人は、確かに長身ですらりとしてスタイルがいい。


7522/6:2013/10/08(火) 10:38:10.43
しかし顔は、宗教画の聖母のようだが鼻の穴がやけに大きく張り出していて、
野性馬の鼻息を連想せずにいられない。

パーティーで夫人から、半ば強引に郊外の城への招待を取りつけた「私」は、
(社交欄担当には必要な能力なのだ)
広い庭と様々な形に刈り込まれたイチイの樹、現代彫刻の数々と美しい城に見惚れた。
客は他に、少佐と呼ばれる二枚目の元軍人と、馬並みに逞しい女。
「私」は、退役してからも階級をひけらかす奴なんかろくなもんじゃない、
また馬かよ、よくよく馬に縁のある女だ、と思わずにいられない。


753 3/6:2013/10/08(火) 10:42:13.72
夫人が少佐と、カルメン・ラ・ローザというその女をはべらせてお喋りに夢中なので、
「私」は卿と芸術談義に花を咲かせた。
夫人はつまらない用で卿を呼びつける。酒のおかわりとか煙草とか。
そのたびに執事が卿より早く動くのだが、鼻のあたりにかすかな冷笑が浮かび、
口ときたら七面鳥のけつの穴みたいにすぼまるのだ。
忠義者の執事はこの結婚を悲しんでいる、と「私」は思った。

翌朝、「私」と卿は庭を散歩しながら芸術談義に花を咲かせた。
卿が「私」に、夏にも訪問すると約束させた時、
(この庭は夏にはもっと美しくなるんです、夏にもぜひいらっしゃい)
遠くで夫人と少佐がはしゃいでいるのが見えた。


754 4/6:2013/10/08(火) 10:48:05.89
夫人はヘンリー・ムーアの彫刻の穴に首を突っ込んで、
観光地の顔出し看板のようになって少佐と笑っている。
しばらくして夫人はもがき始めた。首が抜けなくなったようだ。
卿は「私」に言った。
「子供の頃、キャンディー・ポットに手を突っ込んだら抜けなくなった事があります。
 トンカチで割りましたよ。母には、うっかり落としたと嘘をつきました」

しばらくして、たった今気がついたような様子で二人のもとに近づいた。
少佐が口紅で汚れた口髭をひねりながら、この彫刻は木製だから簡単に壊せる、
奥様はいたずら心を起こされただけなんです、と言うと卿は嘆いた。
「ああ、何て事を!私の美しいヘンリー・ムーアが!」


755 5/6:2013/10/08(火) 10:50:08.00
それを聞いた夫人は、聞くに耐えない罵声を浴びせた。
夫人の大声を聞きつけた執事がやって来たので工具を持って来るよう命じると、
執事は斧とノコギリを下げて戻って来た。
卿は斧を選んだ。

「私」の目には、手品師が客に、客が好きなカードを選んだと思わせて
手品師の狙うカードを引かせるテクニックのように、
執事がかすかな身振りや目配せで斧を選ばせたように見えた。

「……………お前、斧なんか危ないじゃないか。ノコギリをおよこし」
斧を見て涙目で土気色になった夫人の顔を見て、卿は上機嫌でノコギリを受け取った。


757 6/6:2013/10/08(火) 12:58:26.58
(例えば、子供が車道に飛び出す。暴走車。急ブレーキ。
あなたは目を瞑る。子供の泣き声。目を開けると、間一髪助かった無傷の子供)
(あなたの脳裏には惨劇が浮かんだはず。いいですか、あなたの脳が惨劇を想像して
あなたの胃袋がそれを信じたら、惨劇はもう起こったと同じなんですぞ)
(私にとって夫人はもう、斧で首を落とされて死んだも同然なのです)

卿は”うっかり”手元を狂わせたりするのかな、という後味の悪さ。

 

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