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岡本綺堂『青蛙堂鬼談』中の「蟹」という話

代々繁盛した商家の当主で好事家の男が、
俳諧師や画家、骨董好きの面々を集めて食事会を開いた。
招待客が揃い、そろそろ膳を出そうかという時になって、
近所に住む占い師が偶然に訪れてきた。
占い師と言っても立派な武家出身の人物なので、
主人は丁重に扱い、食事会に飛び入り参加させた。

困ったのは厨房を預かる家の者達で、
献立のメインが一人あたり一匹の蟹だったのに、急に客が増えたので数が揃わない。
あいにく魚屋にも同じ種類の蟹(ガザミ)はない。
主人は
「蟹を振る舞うことは客に言ってあるのだから絶対に出せ、蟹の一匹くらいなんとかしろ」
と急かす。

半兵衛という店の使用人があちこち走り回って、
魚籠を抱えた見知らぬ小僧を連れて帰ってきた。
魚籠には蟹が三匹入っており、小僧は「三匹とも引き取ってもらえるなら売る」と言う。
やむを得ず三匹とも買って、その内一匹を調理して、元々あった蟹と一緒に膳に出した。

待ちあぐねた主人と客一同がいざ食べようとすると、一座の中の占い師が待ったをかけた。
「この中に死相の出た方がござる。この蟹は食べずに下げた方がよろしかろう。
 家の者達も食べてはならない」
占い師の真に迫った様子に、皆は言われたとおりにした。

小僧から買った蟹は主人の膳につけられていたが、
それを飼い犬に食わせてみたところ、犬はたちまちに苦しんで死んでしまった。
試しに近所の犬達を連れてきて、元からあった蟹も食わせてみると、その犬達は無事であった。


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この騒ぎで食事会もお開きとなり、
残っていた二匹の蟹はうっちゃっておかれたが、
翌日になるとどういうわけか姿が消えており、どこを探しても見つからなかった。
半兵衛は責任を感じ、小僧を見つけて問いただそうと、同僚を一人伴って出かけていった。
主人は占い師の家を訪れ、
「おかげで命拾いをした」
と礼を言うと、占い師は
「ご無事で良かった。しかし禍いはまだ去ってはおらぬ。お気を付けなされ」
と言うのだった。

半兵衛達はなかなか帰ってこなかったが、
昼過ぎに同僚だけが真っ青になって帰宅し、顛末を報告した。
小僧はなかなか見つからず、あちこち探し歩いて、
ようやく河口の岸辺にそれらしき姿を見たのだった。
半兵衛はすぐさま駆け寄って何やら話をしていたが、
小僧に引きずられるように河の中に入ってしまった。
同僚はあわてて河の中を透かしてみたものの、小僧も半兵衛も姿が見えない。
近くにいた漁師達に頼んで探してもらってはいるが、いまだに見つからないと言うのだ。

報告を聞いた主人はひどく心配し、店の使用人達を大勢やって捜索に当たらせた。
前夜の食事会に居た画家はその商家に宿泊していたのだが、
店の者達と一緒になって様子を見にいった。


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騒ぎが近所一帯に広まり、
噂を聞きつけた占い師が訪れてきたので、主人は事情を説明した。

占い師が「捜索に出たのは使用人達だけでしょうな?」と訊くので
「画家も一緒に行った」と答えると、
占い師は「すぐに人をやって画家を連れ戻せ」と言う。
それで使いを出そうとした折しも、
先に捜索にやった店の者が一人戻ってきて
「捜索を眺めていた画家が河に落ち、これも行方知れずになった」
と言うので、主人は卒倒してしまい、
占い師は「自分が来るのが遅かった」と残念がった。

半兵衛と画家の遺体は一週間ほどして浮かんだが、
蟹にでも食われたらしく、酷たらしい有様であった。
主人はそれ以来、大好物だった蟹を二度と口にせず、
蟹にまつわる書画骨董も一切捨ててしまった。
そして時折「庭先に蟹が二匹いる」と言って騒ぎ立てた。
蟹を売りつけた小僧が何者であったのかは、ついにわからずじまいだった。

「災難を予見した占い師すげー」な雰囲気で、主人も占い師に感謝しているのだが
「そもそもこいつが急に訪れてこなければ誰も死ななくてすんだじゃんよ」って思った。

 

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