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333 名前:来訪者 投稿日:01/12/31 03:03
真樹子が、娘、幸恵を出産する時に知り合った雑役婦の初江は真樹子から見ると少々薄気味悪い女性だった。
最初は気さくで、よく気がつく女性という印象だったのだが、
自分の素性をあまり話したがらない、必要以上に幸恵に馴れ馴れしいというところが
そういう印象を抱かせたのだと思う。

初江は、真樹子が退院した後も、自分と関わろうとしてきた。
「お手伝いさんとして雇って頂けないかしら?」
と言われた事もあった。
女中を一人雇うぐらいの余裕はないことはなかったが、
親子3人水入らずの生活を壊されたくなかったし、
素性がよくわからない人間を雇うわけにはいかないので丁重にお断りしたが、
それでも、月に何回かは家に訪れて、半ば強引に上がりこみ
世間話をしたり、幸恵の様子を見て帰っていく。

そんな折、今日も幸恵が訪れた。
まるで自分の家であるかのごとく家に上がりこむ。
いの一番に「幸恵ちゃんは元気かしら?ちょっと様子見てくるわね」と言う。

真樹子の夫は名のある企業の社員であり、双方の実家とも経済的に十分恵まれている。
今住んでる家だって100坪ある。売れば一億にはなるだろう。
対して初江は精神的にも貧しい生活をしていることは見てわかる。
亭主とは死別したらしい、確か子供はいたような話もしていたが・・・

初江と赤ん坊の様子を見ていると、玄関のチャイムが鳴った。
廊下を歩き、玄関を開けると驚く事に警察だった。
「神崎初江をご存知ですか?」
「あ、はい、今奥の部屋で赤ん坊をあやしてますけど・・・何か?」
途端に警官は焦って奥の部屋に向かった。

すでに部屋には初江はおらず、幸恵だけになっていた。

警察の方によると、初江は自分の娘の赤ん坊、ようするに孫を殺害して現在指名手配中だと言うのだ。
そんな人間がホンの数分前まで幸恵を抱いていたのかと思うと、真樹子はぞっとした。

警官によると、初江が殺した赤ん坊は幸恵と同じ月に生まれたらしい。
真樹子は立ってるのが苦しいほどのめまいを覚えた。
気がついてみると幸恵の顔はどこか神崎初江に似ていた。

恵まれない側の人間がこちら側に忍び込む一つの方法だったのではないか。
ベッドの中ではその恵まれた分け前をむさぼるように来訪者が
指を吸いながら安らかにまどろみつづけていた。

 

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