紅の玉(宮部みゆき)

55 名前:宮部みゆきから 投稿日:02/02/16 15:46
時は江戸の頃。
世は奢侈禁制が敷かれ、贅沢と見られる事は厳しく取り締まられていた。

多くの者がその煽りを食らったが、中でも飾り職人はめっきり仕事が減ってしまい、
食うや食わずの日々を過ごしていた。

かんざし職人の男も、例に漏れず苦しい生活を送っていた。
男には病弱の妻があった。
いつか妻と二人で自分たちの小さな家を持ち、楽な暮らしをさせてやりたい、
高価でなくとも綺麗な着物を着せてやりたい、そんなささやかな夢を持った男だった。

一生懸命働いて、真面目に日々を過ごしていれば、いつかは叶う夢であった。
禁制が出来るまでは。

今の世では、叶わぬ夢だ。
それどころか、かんざしを作る客も減り、毎日の生活もおぼつかない。
妻の体は日に日に弱っていくのが、よくわかる。
救いの手は、どこにもないように思えた。


56 名前:宮部みゆきから 投稿日:02/02/16 15:46
しかし、ある日一つの依頼が男に舞い込んだ。
年老いた老人が、娘の嫁入り道具にと、かんざしの制作を依頼してきたのだ。

豪華な結婚式を挙げられないまでも、せめて代々伝わる宝石を使って、
立派なかんざしを持たせてやりたいのだと言う。
世間に知られては困るので、こっそりと娘に持たせてやりたいと。

それは今の世では考えられない品物だった。
男も初めは怪しんだが、老人の身なりや言葉、そして娘への愛情を信じる事にした。

秘密裏ゆえに大枚の報酬。
これで妻にやっと薬を買ってやれる。
何より久々の仕事だ。
職人としての腕を振るう事が出来る。

それは男にとって幸せな日々であった。


57 名前:宮部みゆきから 投稿日:02/02/16 15:46
男がやる気を出している事は、妻にも伝わっていた。
妻の具合もいくらか良くなったようで、もう一度幸せの日々が舞い戻ってきたようであった。

最後の仕上げをする時。
男の職人心が揺らされた。

二度と巡ってこないかも知れない力作を作るチャンス。
ならば、自分が作ったとの証として、かんざしに名を彫りたい。

老人も喜んで承諾してくれた。
それどころか、素晴らしい仕上がりに気をよくして
代金を上乗せしてくれた。

男には、この幸せがいつまでも続くように思えた。

明くる日。
街は一つの噂で持ちきりだった。
若い娘が仇討ちを果たしたという。
作られたばかりの美しいかんざしを使って。
男の名が彫られたかんざしを使って。

男の元に役人が訪れたのは、それから間もなくの事であった。

ラストはうまくまとめられなかったので省略してます。
あの後味の悪さが出せなかった…

かんざしに名前を彫るのを止めてくれれば、男は捕まらなかったのに…。

真面目で実直な老人も自分の都合しか考えてないドキュソだったって話しです。


58 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/02/16 16:01
老人は、仇討ち用って知ってたの?

59 名前:宮部みゆきから 投稿日:02/02/16 16:13
>58
老人は知ってました。
っつーか、老人が仇討ちの後押しした。

本当は娘じゃなく、孫娘が仇討ちしたんだけど、
孫の親父、つまり老人の息子が無実の罪で捕まったんで、その仇討ちなのね。

それに、老人は法律や官僚に対する反発心もある。

ラストでそれが明らかになって、余計に男はショックを受けるんだけど、
そこがうまくまとめられなかったんです…スマソ


85 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/02/17 14:02
>>55-59
新潮文庫「幻色江戸ごよみ」の“紅の玉”ですね。
あの本は弱い庶民が起こしたり巻き込まれたりする事件がテーマなんで
後味悪い話や物悲しい話がおおいよ…

 

幻色江戸ごよみ (新潮文庫)
幻色江戸ごよみ (新潮文庫)