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214 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 03:12
ある小説家の告白です。

N君とは田舎の中学校で同級生だった。
彼も私も東京に出て別々の高等学校へ入学したが、
大学へ入ってみると、 また同じフランス文学科で顔を会わせた。
なるほどかのライバル意識はあっただろう。
充分に親密になっていい間がらでありながら それほど親しくなれなかったのは、
やはりおたがいなんとなく馬が合わず、
かすかに毛嫌いしている部分があったからだろう。


215 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 03:14
それでもなにしろ家族ぐるみの知り合いになっていたから、
クリスマスの頃になると私はふと思い出し、 ケーキをたずさえて何度か、
おそらく二、三年続けて彼の家を訪ねたりしていた。
私は大学在学中に肺結核に罹り二年間休学した。
当然彼のほうが二年先に卒業する。

216 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 03:16
ある年の十二月のなかば、大学の廊下でN君と出会った。
四年生のN君は来春の就職がすでに決まっていた。
「おめでとう」
と、私は言ったと思う。
「うん。しかし、卒論が書けなくて」
N君はなかなかの秀才だった。
大学の卒業論文なんかほんの形式だけではないか。
私は、
「卒論が書けないなんて馬鹿だ」
と、確かにこの通りの台詞を冗談めかしく、
しかしなにほどかの嘲笑を交えて言ったと思う。

217 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 03:19
N君が自殺したのはそれから二週間ほど後だった。
クリスマスの翌日だった。
家族がみんな暮れの買い出しに出かけたあと、
N君は睡眠薬を飲み、ガス栓を開き、顔に白布を載せて死んだ。

原因は

『卒論が書けなくて』であった。


218 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 03:22
N君は高校のときにもノイローゼに罹ったことがあった。
その頃は学校も違ったので接触も薄く、
病状がどれほど悪かったのかくわしくは知らない。
一時休学をして病院にまで入ったのだから、
そう軽い病状ではなかっただろう。

219 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 03:27
以上は今日までだれにも漏らしたことのない告白である。
大きな咎が私に合ったとは思わない。
だが、人はいつの日か、だれかを殺しているものだ。
もうあれから二十数年の年月が流れた。N君の命日がまたやってくる。

 あるエッセイ『私の犯した殺人』より抜粋。


221 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/06/01 05:19
>219
『こころ』みたいな話だなー

222 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/06/01 07:23
「卒論が書けないなんて馬鹿だ」って台詞は、『こころ』の
「向上心が無いやつは、馬鹿だ」に似てる気がする。(うろ覚え)
創作か実話か知らんが、『こころ』は意識してるのかも。 

225 名前:告白 ◆LDJ.nSAcoo 投稿日:03/06/01 15:12
実話です。
ある直木賞作家エッセイ。
この作家、
「自分の双児の弟が1歳の誕生日を迎えずに亡くなったことの原因も自分に遠因があるのではないか」
ということもかいてありました。
人はどこで他人を殺しているかわからない。
当人に殺意があったかどうか関係ない。
悪意のない『殺人』ですね。

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