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928 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/03/19(日) 19:04:16
野球関連で後味悪かった短篇小説。蘇部健一の「誓いのホームラン」。

東京ファルコンズの川本は、送りバントの日本記録保持者。
ここ百打席以上、一度も失敗していない名手である。
仙台パンサーズとの優勝争いを夜にひかえたある日、
川本は、遠縁の8歳の少年・純の入院先に見舞いにやって来る。
純は明日、内臓の移植手術を受けるのだ。
だが成功するかは解らず、純はどうせ死ぬならお腹など
切りたくないとダダをこねていた。川本は純を励ますが、
成り行きで、今夜の試合でホームランを打てば、
純も手術を受けるという話になってしまった。
川本はバントこそ名人だか、ホームランは殆ど打っていなかった。
だが「やろうと思えば出来ないことはない」という自分の言葉を
証明するため、川本は誓いを立てる。
川本の背に、「ずっとテレビで応援してるからね」
と言う純の声が重くのしかかる。


929 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/03/19(日) 19:05:06
そして夜。試合は、息詰まる投手戦いが続いていた。
6回裏、1対0でパンサーズのリード。バッターは川本。
川本は前の2打席、珍しく大振りで三振。周囲は首をかしげていた。
この時、天の采配か、敵の投手は乱れ始めていた。
ストライク無しのスリーボール。ベンチは四球を狙っている様子だ。
だが、敵のがストライクを取ってきた球を、川本は打った。
ジャストミート。球は伸び、レフトスタンドに向かった。
走るレフト。球はどんどん伸びる。フェンスにはりつくレフト。
そして、スタンドに差し出したレフトにグラブに球は…入った。
川本の同点ホームーランは、こうして消え失せてしまった。
そして9回裏。ファルコンズは1塁2累にランナーを出して、
絶好の逆転のチャンスを迎えていた。バッターは…川本。
ここはバントしかなかった。次のバッターはヒットメーカー。
名人の川本がバントを成功させれば、勝利はカンペキだった。
コーチのサインを確認し、バントの構えを取る川本。
しかしその瞬間、川本の脳裏に純の声が響く。
「ずっとテレビで応援してるからね」…川本はバットを振り…
優勝の絶好のチャンスを、ファルコンズは一瞬で失ってしまった。

930 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/03/19(日) 19:06:02
試合後。報道陣のインタビューに、「けじめをつける」と応える川本。
「それは年齢的に、引退という事でよろしいんですね?」
「はい。そう受け取っていただいて結構です。」
だが更に川本は言った。今日の最後の打席に、自分は
男として、一片の悔いもないと。
だが、誰もいなくなったロッカー室で一人うなだれる川本に、
男が近づいてきた。球団の広報担当者である。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
「うん?」
「ご親戚の純くんの容態が、試合前に急変しまして」
「えっ…」
「試合開始の1時間前に、亡くなったそうです」
「……」
「連絡はすぐあったのですが、大事な試合の前でしたので…」
「……」
「ご冥福をお祈りさせていただきます」
再び誰もいなくなったロッカー室。川本は虚ろな表情で、ぼそっとつぶやいた。
「先に言えよ」

932 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/03/19(日) 19:20:17
>>930
うわー後味悪い
最後の一言がすごいね…
導入を読んで、切ない話や重い話になるのかなと想像してたんですが、
まぎれもなく「後味の悪い話」に落ち着きましたね

 

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