ホーム » 小説 » 小説/は行 » 弁財天の使(菊池寛)

268 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/03(土) 00:10:51
菊池寛「弁財天の使」

江戸時代の話です
飛脚問屋を営む藤兵衛という老人がいました。
広い家に住み、五つの蔵を持ち、庭には池まであるこの界隈きっての豪商でした。
そんな藤兵衛の変わったところを挙げるとすれば、
不忍池の弁財天を大変信仰しているということでした。
だから庭の池には不忍池の弁財天になぞらえた小さなお社が作ってあり、
毎朝のお参りを欠かしませんでした。

その頃の不忍池は、草が生い茂りこのまま放ってはおけない状態だったので、
寺社奉行が池を一度さらってしまおうと決めました。そこで人夫を集めるために、
「手伝ってくれたら池の魚を自由にとっていいよ(普段は釣魚禁止だった)」
と宣伝しました。藤兵衛はこのことを知ってすっかり憂鬱になってしまいました。
このままでは弁財天の池の魚たちがとりつくされてしまうのです。


269 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/03(土) 00:11:33
その日の夜、藤兵衛の家に来客がありました。
十八、九歳くらいの大変美しい女性でした。藤兵衛がすっかり堅くなっていると、
女性は声をひそめてこのようなことを話し出しました。
「私は不忍池の弁財天からの使者です。あの池さらいの事で、
弁財天女は池の魚たちのことをたいへん心配しておられます。
そこで、大きくて社のあるお宅の池に魚たちを一時移すことをお決めになりました。
引き移す日の夜には、大雨をお降らせになりますので、その日は決して誰も外に出てはなりません。
魚は相当な数ですので時折思いもよらない音がするでしょうが、決して外に出てはなりません。
引き移しが人目に触れてはならないのです。くれぐれもお願いいたします」
藤兵衛はすっかり有頂天になりました。

そして六月二十五日の夜、大雨が降りました。
藤兵衛は家の者に決して戸外に出るなと固く言い聞かせておきました。
時折池の水音や、物をたたくような音が聞こえます。藤兵衛は、引き移しが始まったのだと
うれしくてなりませんでした。

次の日の朝、藤兵衛は誰よりも早起きして池へ急ぎました。
しかし、池には鮒一匹泳いでいません。
そのかわり、土蔵の壁がみんな外から切られ、
金銀その他めぼしい重宝は跡形もなく盗み去られていましたとさ。

どっとはらい


270 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/03(土) 00:31:36
>267
最後の一言が後味悪い・・・・

 

菊池寛 (ちくま日本文学 27)
菊池寛 (ちくま日本文学 27)


後味悪い
(後味悪ければクリック)
読み込み中 ... 読み込み中 ...