双頭の蛇(西村寿行)

896 名前:「双頭の蛇」1/3 投稿日:2007/12/12(水) 01:59:10
騒音に悩まされた夫婦が、マンションを買う。
マンションでは騒音に悩まされる事は無かったが隣人が変質者だった。

隣人は表向きは真面目な人間だが、妻に向ける視線に異様なものがあった。
いやらしく、粘つく様な目。明らかに変質者の目だった。

隣人はゆっくりと夫婦を追いつめて行く。
夫婦が鳥を飼えば、隣人は猫を飼う。
猫に妻の名前を付ける。猫は我が物顔でベランダを歩き回る。
洗濯物が猫の毛まみれになる。窓からも入って来る。
やがて夫婦の娘が喘息になる。猫が原因のひとつになったに違いなかった。
猫がベランダに侵入出来ない様に鉢植えを置けば、あっという間に掘り返される。
猫もまた、飼い主に似て陰湿な何かを持っていた。

夫婦は窓を開けて換気する事も、洗濯物を干す事も出来なくなる。
娘を日光浴させる事も出来ない。
そんな中、飼っていた鳥が突然死ぬ。

妻が鍵をかけずに外出した10分程の間の出来事だった。
それを見た妻は「隣人の仕業に違いない」と思う。
夫もまた同じ様に考えた。夫は猫を殺す事を提案する。
猫が死ねばベランダが使える。隣人にも打撃を与えられる。

綿密に計画したお陰で、猫は毒餌を持ったまま消えた。
猫はいつも、近所の墓地で遊んでいた。そこへ行ったものと思われた。
夫婦は安堵する。


899 名前:「双頭の蛇」2/3 投稿日:2007/12/12(水) 02:01:29
次の日、エレベーターで夫と隣人が顔をあわす。
隣人は「何もかも知っている」と言わんばかりに笑ってみせた。
怯える夫が帰宅すると、妻もまた蒼白になっていた。
ベランダに、大きな芋虫が投げ込まれていたと言う。

猫を殺した事がバレたに違いない、と夫婦は怯える。
数日後、マンションの友人の家から戻る途中の娘が階段から転げ落ちて怪我をする。
悲鳴に驚き、飛び出した妻は、階段を上がって来る隣人夫婦を見た。

帰宅した夫に、隣人が突き落としたに違いないと訴える妻。
そうでないにしても、泣いている子供を無視すること自体がおかしい、と。
夫はその足で警察に駆け込む。だが警察は冷たかった。
隣人の迷惑行為を訴える夫を侮蔑する様に笑った。

憔悴し切った夫に、妻は別れを切り出した。
「何も悪い事はしていないのに、どうしてこんな目に遭うのか」と妻は言う。
家は両親が田畑を売った金を頭金として、今もローンを払っている。
簡単に引っ越す事は出来ない。それは負けを意味する。

夫は千枚通しを掴み、妻が止めるのも聞かずに隣人の家へ殴り込む。
隣人が「落ち着いて話そう」と言うのを聞かず、暴れ回った。
殺す気だったが、不意をつかれて反撃を食らった。

夫は警察に連行された。洗いざらい話したが、被害妄想だと一蹴された。
隣人は自分の非を認めていた。妻をじろじろと見たのは、美しかったから。
夫に白々しい態度を取ったのは、以前に隣人との付き合いで厭な思いをしていたから。
猫の名前は、昔飼っていたペットと同じ名前をつけただけ……。

隣人は告訴はしないと言う。その代わりに、夫に精神鑑定を受けろ、と言う。
言われてみれば全て気のせいだった気がした。


900 名前:「双頭の蛇」3/3 投稿日:2007/12/12(水) 02:03:36
その後、精神鑑定の結果が出た。精神分裂病の初期。
医者は入院を勧めた。通院でもいいが、その場合責任は取れない。
そう言われて、妻もまた放心状態に陥った。

全てが被害妄想の賜物で、本来なら異常者の筈の隣人が正常で夫が異常者だった。
そう言われても、妻は信じられなかった。
納得がいかず、罠にかけられた様だと思った。

家に戻った妻は、死んだ筈の猫を見た。猫は禍々しい目で妻を見た。

翌日、娘を幼稚園に送った帰り道、隣人と出会った。
通行人はいない。待ち伏せされたのだった。
逃げ出そうとしたが、足が竦んだ。動けない妻に、隣人が近づいてくる。
「美しいお体をしていますね」隣人はそう言って、全身を舐める様に見た。
そして、「それではまた」と立ち去った。

妻は心も身体も萎え切り、ふらふらと家へ向かった。
夫は入院している。家には女と子供だけ。
もう逃げる事は出来ないのだと絶望が全身を浸していた。

終わり。


903 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 05:25:04
>>900
面白いですねえ。
完全に狂った隣人ではなく、冷静で頭もきれるけど外道かあ。
引っ越せよとか言ったら身も蓋も無いけど。

912 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 13:34:25
>>900
嫁さんも入院した方がよさそうだな。

精神病って移るからね。
基地外二人を一緒にしてるとさらにパワーアップする。
引き離すと戻る。


913 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 13:58:27
>>912
どっちとも取れるから後味が悪いんだと思う。
夫婦ともに精神異常なのか、本気で隣人が異常なのかは
読者に委ねられると言う。

914 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 16:37:31
最後を読めば隣人が異常ってわかるじゃん

915 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 16:50:45
隣人はそれが普通の行動なんだろ。
それがキチガイなのかなんなのか、
もう分からないけど、とりあえず
夫はもう守ってくれない、ってだけ
しかわからんのじゃない?

916 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 17:12:25
>>914
フツーに挨拶してるのに妻が狂ってるからそういうふうに見えたのかもよ

924 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 19:38:41
>>916
普通の挨拶で女性にいい体してますねはないだろ…。

926 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 19:49:53
>>924
幻聴を疑い出すと、どうしようもなくなるか……

929 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 21:10:58
>>926
あ、なるほど。そういう見方もあるよね。
毒餌持って逃げた猫が生きてたのも、
ストーカーの隣人が復讐を見抜いて取り上げたor猫は狂った妻の幻影
とかなんとでも取れるなあ。

931 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/12/12(水) 22:38:45
毒餌を与えたヌコの存在をどうとらえるかだぬ
隣人が気づいて取り上げた or 主人公サイドの幻覚
前者の方が確率が低いだろうし(タイムリーに餌を取り上げるのは難しい)
精神科医の診断もあるしで、作者としては後者に推測して欲しいんでないかぬ

 

双頭の蛇 (徳間文庫)
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