時分割の地獄(山本弘)

915 名前:時分割の地獄/山本弘 1/3 :2008/09/15(月) 09:14:13
ヒロインの名前を忘れたから、仮名で。

初音ミク(仮名が大ブレイクして、普通にヴァーチャルアイドルが一般に認知された、
さして遠くない未来。

ソフトウェア会社の努力により、擬似人格を獲得したミクはマスメディアや動画の中で寵児となり、
大容量鯖の恩恵を享受し、信じれないような量の仕事を、同時進行でこなしていく。
リアル芸能人達は、そんな彼女に激しい嫌悪感を抱く。

主人公は、そんな芸能人の一人で、事あるごとにミクの存在を否定する。
曰く、あんな物は魂も何も無い、只のデータ上の存在だと。

ミクは、そんな主人公の態度を知り、ネット上に存在する彼のデータを集め、
ある計画を立てる。

ある日、彼が司会をする公開トーク番組に、ミクの所属事務所から、出演を打診され、
彼はAIを論破するチャンスと思い、それを受け入れる。

収録当日、普段ゲストが座る椅子の代わりに大画面ディスプレイが設置され、
そこにはミクの姿が映し出され、彼との対談が始められる。

AIに感情の存在を認めない彼に対し、ミクは言う。
「例えば、一人称で綴られた物語があり、それが伝記か小説かわからない状態で、
その中の人物が怪我をして、その時の痛みから発した感情の非存在を、
あなたはどうやって証明しますか ?」と。

それは屁理屈だと言う主人公に、ミクは言う。
「私は、あなたに対して、『殺意』を抱いています。
そして、それを証明する事が出来ます。」


916 名前:時分割の地獄/山本弘 2/3 :2008/09/15(月) 09:15:30
「あなたは、私の存在を否定し、それによって、
 私が唯一つ、所有している『心』を侮辱しました。
 『殺意』を抱くには十分な理由でしょ ?」

ディスプレイから出現した手が、彼の顎を触り、
その感触に、彼は戦慄し、椅子から転げ落ちる。

助けを求める様に周りを見渡すと、観客も番組スタッフも凍りついた様に動かない。
今や完全にディスプレイから抜け出したミクが指を鳴らすと天井が消え、
代わりに満天の星空が現れ、彼女が指を鳴らすたびにセットが消えていき、
一面の草原に彼とミクだけが取り残される。

「私は現実の世界にいるあなたを殺す事は出来ません。」
いつのまにか、ミクはチェーンソーを抱えており、それを持ち直すと、
そのスターターを勢い良く引っ張った。

逃げ出そうとして、自分の両手両足が、二本の鉄柱に鎖で繋がれている事に気づく。
「ここは、私がシミュレートした世界です。逃げられませんよ。」
「待て、ここにいる俺も本物の俺じゃないんだろ !! この俺を殺しても意味が無いだろ !!」
振り下ろされたチェーンソーが彼の肉体を服ごとえぐり、激痛に悲鳴を上げる。

「そんなこと関係ありません。私にとっては、ここにいるあなたも、
現実のあなたも、存在として等価です。
重要なのは、私が殺意によって、人を殺すという行為、それ自体なんですから。」

満天の星空の下で、幾つかの肉塊となった彼を見下ろし、ミクは呟く。
「やはり、一度では、良くわかりませんね。」
彼女の指が、乾いた音を立てて鳴った。


917 名前:時分割の地獄/山本弘 3/3 :2008/09/15(月) 09:17:22
復活した彼を、ミクはネットから得た、有史以来試みられた、
ありとあらゆる方法で殺し続ける。
その合間にも、ミクは自分に与えられた仕事をこなしていく描写が入る。

「私は、『良心』と言う感情が、よく判りません。
ここであなたの上げる悲鳴によって得られる物が、
多分、そうなのでしょう。
あなたはここで、私の『良心』で居続けて下さい。」

以上。AIの感情の有無に関する細かい問答は、かなり端折った。


919 名前:本当にあった怖い名無し :2008/09/15(月) 11:08:07
>>915-917
イミフ。
そもそもミクはどうやって主人公は仮想世界へ引きずり込んでいるのか?
そんな魔法みたいなことができる時点で前提としておかしい。

それとも仮想世界で仮想主人公が殺されている間でも現実の主人公はピンピンしてるってこと?
それじゃ本当に意味がないじゃん。


922 名前:本当にあった怖い名無し :2008/09/15(月) 11:31:58
投下人を煽るような書き込みしかできない奴がいるな

主人公が実際に苦痛を受けてるならそら後味悪いし
苦痛を受けてなくても基地外のAIが人気を得て笑顔を振りまく裏で
主人公を惨殺し続けてるんだからAIの虚しさも含めモヤモヤもする


938 名前:915 :2008/09/15(月) 17:48:12
語り口のヘタさは勘弁汁

ぶっちゃけると、仮想世界で惨殺され続けるのは、
ミク(仮が構築した、主人公の擬似人格。
但し、主人公の擬似人格自体は、惨殺され始めるまで、その自覚は無かった。

現実の主人公は、ミクの鯖の中で起こっている事は、知る由も無い。

ま、AIの妄想乙と言われれば、そこまでの話なんだが。

どこが後味悪しかと言えば、リアル→ヴァーチャルの移行がスムーズで、
主人公と主人公の擬似人格の区別が曖昧なとこと、
『良心の呵責』ってのは、ある種の精神的自傷行為なんじゃんね ?て、所かね。

 

闇が落ちる前に、もう一度 (角川文庫)
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