言いません(多島斗志之)

526 名前:本当にあった怖い名無し :2008/09/25(木) 00:02:11
短編集「少年達の穏やかな日々」より
立ち読みなんで登場人物の名前が適当なんだけど…

中学2年になる少年浩之は、学校からの帰り道、つい好奇心でいつもと違う道を通って帰ろうと考える。
その道はあるラブホテルの前に通じているのだが、
そのホテルからクラスメイトの正明の母親が中年の男と出てくるのを目撃してしまう。
正明の母親は「しまった!」という顔をしたが、2人はそのままそ知らぬ顔ですれ違う。
中学生の乏しい経験でも、あれは不倫だと直感した。
だが、正明とは別に親しくもないし、たまに話すくらいで一緒に遊んだことも無い。
変に波風も立てたくないし、見なかった事にしようと思っていた矢先、正明の母親から贈り物が届いた。
中身を見て見ると、それは高そうな腕時計だった。
口止め料のつもりだろうけど、こんなものを貰っても有難くもなんともない。
むしろ共犯者になるみたいで後ろめたいし、両親に見つかったら万引きでもしたのかと誤解されかねない。
浩之は、学校帰りにこっそり正明の家に寄って、ポストに入れて時計を返した。

その翌日から、正明の母親に尾行されるようになった。
なんとか人目のないところで浩之と2人きりになろうと、学校帰りや塾の行き帰りなどに、
あちこちで待ち伏せしているのだった。
その様子に尋常ではない恐怖を覚えた浩之は、なるべく人通りの多いところを歩くようにしていたし、
それが出来ないときは常に周囲を警戒して正明の母親に見つからないようにする。


527 名前:本当にあった怖い名無し :2008/09/25(木) 00:02:55
なんでこんな事になったんだと嘆いても、誰にも相談できない。
一人で思い悩む日々が続いていたが、ある日差出人の書かれていない一通の手紙が来た。
それは予想通り正明の母親からで、日曜日に駅前で会いたい、と言う内容だった。
もういい加減に悩むのにも疲れた浩之は、その話に乗ってみることにする。

日曜日、駅前のロータリーで正明の母親は待っていた。
ただし、車を傍に停めていた。
車に乗るのは不安だったが、「人目に付かない所でゆっくり話し合いたい」という言葉で決心する。
正明の母親は、車をずいぶん走らせて浩之の知らない遠い街の、小さな喫茶店の駐車場に車を停めた。
喫茶店に入って簡単なものを注文すると、2人の会談が始まった。
母親はこれまで尾け回したことを詫び、時計は口止めではなく気持ちの問題だから貰って欲しいし、
もし気に入らないなら他のものでも何でも買ってあげるからと告げる。
一方浩之は、高価なものを貰っても親にどこで買ったのかと追求されてはまずいこと、
誰にだって事情はあるんだから自分は深入りするつもりは無いし、もちろん誰にもしゃべるつもりはないと告げる。
正明母はどうやら安心したらしく、自分の不倫を正当化する言い訳とも愚痴ともつかないおしゃべりを始めた。
浩之はそれをうんざりしながら聞き流した。
2人で喫茶店を出て、車で帰る途中にパラパラと雨が降り出した。
すると正明母は、何を思ったか突然ハンドルを切って、近くのラブホテルの駐車場に車を乗り入れる。
慌てる浩之に、正明母は「勘違いしないでね」と釘を刺し、雨の中を運転するのは怖いから雨宿りするのだと言う。


528 名前:本当にあった怖い名無し :2008/09/25(木) 00:04:48
部屋に入って浩之が所在無さそうにしていると、正明母は後ろを向いて突然ブラウスを脱いだ。
慌てる浩之にブラジャーのホックを示し、「ねえ、ココ外してくれない?」と迫る。
ウェストを締め付けるスカートの縁にたっぷりとお腹の脂肪が乗っかって、
まるで洋菓子のスフレのような後姿を見ただけで、彼の意識の中でそれは「女の人の裸」ではなかった。
全く動こうとしない浩之に対し、自分に恥をかかせるのかと怒る正明母だったが、浩之は断固として拒絶する。
結局、正明母の方が折れて、気まずい空気の中でホテルを後にする。
そして、車の中ではまた言い訳が始まった。
「どうしても何かしてあげないと気がすまないのよ」「気になって夜も眠れないの」「あなたの事が怖いのよ」
それに対して浩之は、自分は誰にも言ってないしこれからも言うつもりもないと何度も強調してなだめる。

正明母はあまりに言い訳に夢中になりすぎ、横合いから飛び出してきた車に反応するのが遅れた。
なんとか車との衝突は避けたものの、そのまま電柱に激突する。
スピードは出ていなかったがシートベルトを着けていなかった正明母は、ハンドルに頭をぶつけて血を流している。
一方、助手席の浩之はちゃんとシートベルトをつけていたので無事だった。
とにかく救急車を呼びたいが、相手の車は行ってしまうし、このあたりに民家は見当たらない。
どうしようかと思っていると、正明母はグッタリしたまま呪詛の言葉をつぶやき出した。
「どうしてくれるのよあんたさえいなければ全部何もかもあんたのせいよこの疫病神が…」

それを聞いて浩之の中の何かが切れた。
(あんたの独り善がりにはもううんざりだ俺が何をしたって言うんだあんたの方こそ俺の前から消えてしまえよ…)
彼は心の中でそう呟きながら、全身の力をこめて正明母の首を絞めるのだった…


529 名前:本当にあった怖い名無し :2008/09/25(木) 00:15:32
放っておけば死ぬのに首を絞めてしまった事で何らかの罰を受ける主人公が後味悪い

531 名前:本当にあった怖い名無し :2008/09/25(木) 00:19:45
>>529
ごめん補足
頭は打ったけど多分元気w

 

少年たちのおだやかな日々 (双葉文庫)
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(双葉文庫)