かきあげ(三浦哲郎)

464 名前:本当にあった怖い名無し :2008/10/14(火) 18:33:18
三浦哲郎の短編「かきあげ」

老人は老妻も亡くしアパートで一人暮らしをしている。
今日も近所の総菜屋でかきあげを買って帰るとアパートの前で
若者どもが足を投げ出してたむろってるのを「足をどけてくれないか」と言いながら通る強い老人。
若者らは「なんだあのじじい」「元船乗りなんだってよ、肩に横文字の入れ墨があるんだぜ」
「陸に上がったカッパかよ」「頭のサラも干上がってら」と。
悪口を背中に聞きながら、ああ若者らの中にはアパートで隣り部屋の、
父親と二人暮らしの所謂ニートの不良もいたな、と老人は思う。

その夜に突然、小学一年の孫娘が訪ねてきた。
孫娘は数駅先で娘と二人暮らしで住んでいるのだが、娘に「じいちゃんとこに泊まれ」と追い出されたという。
老人には老人を慕ってみな海の男になりそして死んだ息子が数人と、一人娘がいたが、
娘だけは老人になつかず老人から見たらろくでなしの男と結婚し孫を生みすぐ離婚した。
男を連れ込むために自宅アパートの玄関先で追い出され、手土産の酒の小瓶など持たせられ、
数駅をひとりでやってきた孫娘を思い、老人は身持ちの悪い娘を始めて心底憎んだ。

孫娘が眠った頃、隣りのニートが帰ってきた。
その大きなバイクの音で孫娘は目を覚まし泣き出した。
「なんだ小さい女の子の泣き声がするぞ」と酔っぱらったニートが老人の部屋を叩く。
「開いてるよ」と孫娘を腕の中で揺すりながら声をかけるとニートが入ってきて
「なんだジジイが女の子連れ込んで泣かれて往生してやがら おれが黙らせてやるぜ」と腕を延ばしてきた。
老人がとっさに振り払った腕がニートのアゴにあたり、ニートはそのまま倒れ、動かなくなった。
老人はぼんやりそれを眺めながらどうしてこんなことになったのか何も考えられなかった。
ただそのうちニートの口から出てきた液体を見て今日のかき揚げの桜エビと同じ色をしていると思った。


467 名前:本当にあった怖い名無し :2008/10/14(火) 19:36:52
後味悪いと言うより切ない話だな。
何の害もなく生きてきた老人がDQNのせいで迷惑を被った。

 

みちづれ―短篇集モザイク〈1〉 (新潮文庫)
みちづれ
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完本 短篇集モザイク
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