双頭の人(山田風太郎)

770 名前:1/2 :2008/11/25(火) 22:16:50
「双頭の人」(山田風太郎)

若い研究者・鞆太郎には、結婚を約束した娘がいるが
彼女は確かに愛らしいが、教養などとは無縁な、ただただ御伽噺のような新婚生活を夢見る娘だった。
鞆太郎は、それを責めたりこそしないが
内心、ただそれだけの娘を妻とすることに物足りなさを感じていた。

肋膜炎を起こして入院中の娘を受け持った主治医は、29歳の女医だった。
その女医の容姿は恐ろしく醜く「それは顔というより、醜悪怪奇な腫れ物というに近かった」と
描写されるほどだが26歳で博士号をとるほど聡明で「頭脳的に一種の巨人」だった。
その知性に魅かれた鞆太郎は、女医に結婚を申し込む。

鞆太郎の言葉を信頼したい女医だったが、その顔は悲しげに曇っていった。
実はそれまでにも、女医に結婚を申し込んだ男は5人いたのだが
彼らは全員、彼女の「テスト」に耐えることが出来なかったのだ。

「美しい だ け の女に心を動かしたりはしません」と誓う鞆太郎は、そのテストを試す。


771 名前:2/2 :2008/11/25(火) 22:21:32
突然、女医はくるりと首を廻し、その後頭部の髪を払いのけた。
「よくご覧なさいませ?」
そこには髪はなく、もう一つの新しい顔が浮かび上がっていた。

女医は二重体、高度に融合したシャム双生児だったのだ。
後ろの顔は、ただ「顔」だけの存在であり、
低級な本能以外には知恵も意思も無く、ただ愚かに媚笑しているだけ。
しかし、黒い火の燃える瞳、きゃしゃな鼻、薔薇色の唇・・・それはあまりにも美しい顔だった。
その唇から呟くような誘惑の声が漏れる。

鞆太郎の意志は崩壊し、白痴の美女に屈服してしまう。

女医はしゃがれた嘆きの声をあげる。
「ブルータス、汝もか・・・」

「あなたも5人の男達と一緒でした。
 追いなさい。うつろな美しい幻を追って、醜い賢い女を捨てなさい。
  ・・・精神の美!知恵の美!ほほほ、すべて盲目の男性に呪いあれ!」

女医は背を返した。
鞆太郎は両腕を伸ばした。彼が呼ぼうとしたのは女医ではなく、ただ「顔」だった。
遠くに、永劫の呪いを込めた醜女の笑いが鳴り渡って、やがて消えていった。

「知性や教養は空っぽな美を上回るもの」だと理解している男でも
破格の美女に誘惑されるとこうなるのかと。
ラストシーンの「永劫の呪いを込めた笑い」の呪いの深さは、そのまま
醜くも聡明な女医が負ってきた心の傷の深さと等しいんだろうなあ…。


777 名前:本当にあった怖い名無し :2008/11/26(水) 00:32:28
ブスだけど心が好き!と思ってた娘に、思いがけずオプションで可愛い顔もついてんだぜ
すげー可愛い女の子が実はふたなりだった!みたいな嬉しいサプライズ

778 名前:本当にあった怖い名無し :2008/11/26(水) 00:54:21
>>777
こ…この、変態!

780 名前:770 :2008/11/26(水) 01:01:57
>>777
それで済めば嬉し…いや、まだいいんだけど
あらすじでははしょったけど、鞆太郎は結局
人間としても男としても再起不能な状態になってしまうぞw

この話は、山田風太郎ミステリー傑作選「怪談部屋」に収録されているんだけど
他の収録作品も結構いい感じに後味悪いものが多いので
このスレの住人の方にはぜひお勧めしたい。


782 名前:本当にあった怖い名無し :2008/11/26(水) 02:48:39
山田風太郎って忍者忍者してる印象だったけど
そんなエグい話も書いていたんだな

783 名前:本当にあった怖い名無し :2008/11/26(水) 03:53:36
>>782

>忍者忍者してる印象だったけど

言いたい事は分かるんだが、吹いた

 

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