ホーム » スレ別 » 後味の悪い話 その106 » 戦場の天使

884 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/13(木) 03:19:53
何だったか、その青年と似たような性格の看護婦の話を思い出した。

ある負傷した傭兵の若者が、献身的に世話をしてくれたボランティア団の一人の看護婦に感動して
彼女に想いを寄せる。快復してきた若者は、「もうすぐ俺は従軍の期限が切れる。
そしたら、君も俺の故郷へ一緒に来て、二人で小麦畑をやらないか」とプロポーズする。
が、あんなに優しかった彼女は何だか急によそよそしい態度に変わって断る。
「私を必要としている人はまだたくさんいる」と。
前線の看護施設は女が長く働くには危険すぎると何度説得するも、彼女は頑として拒んだ。

気落ちしていた若者を、先輩の傭兵が「ハハ、あれはやめとけ」と慰める。
「俺は以前からあの女を知ってるが、あれは平穏な家庭には幸せを感じない種類の人間だ」と、
別の戦地で爆撃に遭った施設から患者たちを担ぎ出して救助に奮闘した彼女の武勇伝などを聞かせた。
そして、彼女は以前 刑務所にいたという噂だと話す。
幼いころ親に顧みられず遺棄されてホームで育ち、町の小さな医院で10代で看護婦見習いになっていたが、
退院直前の患者を車椅子で階段から落として再び怪我を負わせる虐待を働いたのだという。
手を滑らせただけだと彼女は必死に抗弁したが、傷害罪で服役することになった。
だが、戦地の従軍看護婦に就くことを申請し、引き換えに刑期の短縮を受けられることになった。
そこでの彼女の懸命な働きぶりは他の一般看護婦たちも頭が下がる程で、
寝る間も惜しんでひたすら負傷兵の手当てや寝食の世話に取り組んだ。
任期が切れた後も、彼女はそのまま戦地看護団を渡り歩き、介抱に従事し続けた。
関係者は、彼女が深く反省して更生し、奉仕の精神に目覚めたのだと称讃した。


885 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/13(木) 03:21:29
「そんなもんじゃねぇ、彼女は最初から最後まで何一つ変わっちゃいない。
元から『怪我人や病人を治すこと』『自分が全面的に必要とされるのを実感すること』
そして彼等から『惜しみない心からの感謝を浴びせられること』が好きなんだ。
間違っちゃいけない、他の医療関係者のように『皆が健康であること』を望んでるんじゃない。
あくまで『怪我人や病人を治すこと』。だから、小さな医院で唯一の患者が退院して
必要としてくれる人がいなくなりそうだったら、無意識に自分で怪我人を作る。
彼女はどっか頭のネジがおかしい社会的不適合者さ。だがな、戦場では看護者はいくらいても人手が足りない。
負傷者は次々に供給され、それに応えて身を粉に働く彼女を、誰もが聖女・白衣の天使と崇める。
彼女は喜々として、どんな危険な戦場へも―――危険で医療従事者の不足している戦地であればあるほど
生き甲斐を感じて歓んで飛び込んで行く。頑張れば頑張るだけ、彼女へ一身に感謝と賞賛が集まる。
あのさ、傭兵で、根っから人殺しが好きで好きでたまらない奴っているだろ。俺たちみたいに金が必要だったり
他に行き場が無かったりで仕方なくリスキーな仕事を選んでるのとは違う、戦争そのものが生き甲斐な奴。
そんな奴が普通に社会で生きてたら犯罪者以外の何者でもないが、戦場でなら英雄だ。
どんな歪んだ精神のロクデナシにも、適材適所の活躍場所ってのはあるものなのさ。
だから彼女は、戦場を離れない。ここでしか生きられない。戦場にいてこそ、輝く聖女様だ。」
先輩の話を聞いて若者は呆然となる。

その日も彼女は忙しく働いていた。
「あの人は天使だ。」「まるで聖女だよ。」
かつての自分のように、事情を知らない負傷兵たちは彼女を尊敬と憧れの眼差しで見つめている。
その光景を複雑な思いで眺めながら、任期の切れた若者は黙ってひとり戦地病院を去っていった……


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