わんわん烏(泡坂妻夫)

118 名前:1/3 :2009/08/20(木) 15:03:05
泡坂妻夫の短編「わんわん烏」
※鳥(とり)じゃなくて烏(からす)です。長文ごめん。

主人公は商店の若旦那。
新妻・加代と2人で暮らしている。

ある朝、烏が「カアカア」ではなく
「わんわん」と鳴いているように聞こえたことについて、加代と話をする。
「きっとあの烏は、生まれてから親烏の鳴き声を聞く前に、
 犬のわんわんという鳴き声を聞いて刷り込まれちゃったんだね」と主人公が話すと
「わんわん烏ね」と加代も寂しそうに笑った。

半年前、加代と見合いをした主人公は、
加代のその寂しげな笑顔にも惚れ込んで、一生懸命に口説いた。
純情な主人公にとって、加代は初めて本気で好きになった相手だった。
内気な加代は、家業を手伝うことにも難色を示したが
店に出なくていい、ずっと家にいてくれたらいいという条件で結婚したのだ。

その朝、店に出勤した主人公は、母親や親戚にも
「加代はまだ店に出たがらないのか」とつつかれる。
「そういう約束で結婚したんだから…
 加代が手伝ってもいいと自分からいってくれたら別だけど」となだめるが
商店街の人々もみんな、商家に嫁いだのに手伝わない加代を
よく思っていないことに、主人公は気づく。

加代に自発的に店に出てもらうには、自分のほうに目を向けさせるだけじゃだめだ。
そういえば自分は、加代が昼間に何をして過ごしているのかも知らない。
もっと加代といろんな話をしよう、お互いに理解しあおうと決めて帰宅した主人公。
しかし「私はわんわん烏でした。どうか私のことは忘れて」という書き置きを残して、
加代は姿を消していた。


119 名前:2/3 :2009/08/20(木) 15:03:52
翌日、加代の父親が主人公の元を訪れた。
加代は主人公が良くしてくれることを感謝していた、
主人公に落ち度はないのでどうかあの馬鹿娘のことは忘れてくれ、と
平謝りする加代の父親に、主人公は説明する。
「わんわん烏」という言葉は、初めに覚えたことは直せないという意味だろう。
やはり内気な加代は、商家には馴染めず負担を感じていたのだろうか…という主人公に対し、
加代の父親は思い切って話し出した。

  わんわん烏というのは、加代が初めて想いを寄せた男のことだろう。
  加代には好きな男がいたが、恋心を伝えることは無かった。
  娘の気持ちを知らない両親の勧めで、主人公と見合いをしたが
  加代に惚れ込んだ主人公を断るだけの強さもなかった。

  しかしその男は、加代が結婚したと聞いて初めて自分の恋心に気づき、
  いてもたってもいられなくなり加代に告白した。
  それを聞いた加代も、「自分の結婚は間違っていた、
  主人公と離婚して男とやり直したい」と加代の両親に訴えたという。
  もちろん両親は激怒し、そんな不誠実なことをするなら親子の縁を切る、と叱ったが
  その説得も加代の心には届かず、加代は男と駆け落ちしてしまった。
  自分達は加代はもう死んだものとあきらめたが
  主人公にはどんなに詫びても詫びきれない…

話を聞いて呆然とする主人公。
加代がいつも寂しそうな顔をしていたのは、
夫を取るか、それとも全てを捨てて好きな男を取るか悩んでいるためだったのか…


120 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/20(木) 15:08:01
主人公は失望のあまり、働く気力も失くしてしまい
毎日、失った加代との生活を思い出し悲嘆にくれていた。

ある日、わんわんと鳴く烏の声を聞いているうちに、
加代の寂しそうな笑顔を思い出し、烏になって飛んでいってしまった。
烏の主人公は、毎日いろいろなマンションのベランダを飛び回って加代を探した。

何年かたって、ようやく主人公は加代の家を見つけた。
幸せそうな顔の加代を見て、主人公は安心した。
加代は主人公が飛び降り自殺をしたことを知らず、
最愛の恋人と再婚して幸せな生活を送っていた。
しかし、最近ベランダによく来る烏が「かよかよ」と鳴くので、
ふと主人公との短い結婚生活を思い出して、烏にパンくずをあげるのだった。

———————–
自殺した主人公や、嫁の裏切りのせいで一人息子が死んでしまった主人公の両親や
まともそうな加代の両親と
周りを不幸にしたあげく、主人公が自殺したことも知らずに
ちゃっかり一人だけ幸せになっている加代との対比が後味悪かった。
主人公が加代を恨んでいないのが救いなのかもしれないけど。


121 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/20(木) 15:25:08
>>118
読み易かったせいか何故なのか、2/3まで江戸時代の商家を想像してたw

主人公が加代を恨んでないこと、加代が現在幸せなことから、後味悪いと言うより寂しく悲しい物語に感じた


122 名前:本当にあった怖い名無し :2009/08/20(木) 15:39:30
>>121
同じくww
3/3でマンションって出てきて、初めて気づいたw

 

泡坂妻夫の怖い話 (新潮文庫)
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