ホーム » スレ別 » 後味の悪い話 その108 » ヤ・ケ・ク・ソ(杉浦日向子)

424 名前:本当にあった怖い名無し :2009/09/21(月) 16:43:12
『彦三太鼓』という歌舞伎の演目にも脚本化された、
杉浦日向子の『ヤ・ケ・ク・ソ』という漫画。
手元にないのでうろ覚えで書く。

放蕩の若旦那に呼び出された馴染みの幇間(太鼓持ち)が
酒を飲みながら話をするってだけで、場面の展開はそれほど派手ではないけど、
なんとなく やる瀬ない感じの人情噺っぽく仕上がっている。

年の暮れが押し迫ったある冬、通人の放蕩息子が、料理屋かどっかに幇間を呼び出す。
ひょうきん者の幇間がやって来て受け答えし、「お前は人も芸も良いが、酒乱なのが玉に瑕だからねぇ」
などと言いながら二階に上がり、酒や料理を食べ始める。
そのうち若旦那は、身請けの約束をしていた花魁を事情があって引き取ることは出来なくなったから
お前から別れ話を上手く伝えてくれと幇間に切り出す。
あんな性根の良い花魁を振るなんてどうしてです、と幇間が詰め寄ると、
花魁が嫌いになった訳じゃない、と若旦那が事情を話しだす。


425 名前:本当にあった怖い名無し :2009/09/21(月) 16:44:31
ある朝、いつものように朝帰りをしたところを父親に見つかり、カンカンに怒られた。
あんまり怒ったせいか、父親は脳卒中?を起こして昏睡状態となり、
助かる見込みはないのに、母親は湯水のように金を医者代につぎ込んでいる。
このままでは年末の掛け払いも危うい。よりによって、こんな時に限って
長年勤めてきた頼りの古株番頭は 前年に暖簾分けを許されて自分の店を開いたばかりで、
今は自分の店で手一杯。新番頭ではまだ内外の諸事を熟知しておらず、この難局を乗り切るには荷が重過ぎた。
この店を潰しちゃいけない、ここは息子の自分が頑張るしかないと、不思議なことに
今まであれほど遊び回っていたのに、憑き物が落ちたように目醒めて真面目に商売する気が起こった。
自分なら、この年末の掛け決済さえ乗り切れば、あとは何とかやっていける見通しがある。
そこで急遽、以前から持ち上がっていた持参金つきの娘の縁談を、受けることに決めた。
どんな娘だか知らないが、親があの額の持参金を付けるくらいだ、想像はつく、と若旦那は淡々と話す。

今すぐには無理だが、三年後くらいには花魁は必ず自分が請け出して嫁入り支度もしてやるから
それまでに自分のことは忘れていい男を作るよう伝言してくれ、と幇間に頼むが、
三年もすりゃあ放っといても年季切れで自分から出て来やす、といって、幇間は酒の勢いで怒って暴れる。
ひとしきり幇間が暴れ終わると、若旦那は「…お前は、本当に酒には気を付けなよ」と言い置き、
店の人に座敷を散らかしたことを詫びて多めの代金を支払い、去って行く。

なんか こうやって文章に書くと若旦那がものすごく身勝手な人みたいだけど、
別れる花魁や幇間や料理屋の人や、周囲のいろんな相手に気遣いが細やかな粋人で、
どうしようもない、物事のタイミングが悪かったんだ、みたいな
諦めというか悟ったというか、淡々とした穏やかな口調の人柄だった。
一方の幇間は、おとぼけ者で酒乱の暴れん坊な単純直情型だけど、性格は素朴にいい奴で…。
みんな悪い人じゃないのに、世の中思うようにいかない時があるんだなぁって感じだった。

 

ゑひもせす (ちくま文庫)
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