酔歩する男(小林泰三)

308 名前:酔歩する男 1/2 :2010/10/20(水) 21:16:48
ある日、飲み屋でAはBに声をかけられる。
Bに対してAは覚えが無いがBに自分の秘密をずばずばと言い当てられたため、話を聞くことに。
B曰く、A(以下a)とBは大学で親友だったらしいがお互いにCという女性に惚れた為に諍いになってしまった。
Cはそれを辛く思ったのか分からないが電車に飛び込み自殺して死んでしまう。
狂乱したaとBはそれぞれの方法でCの蘇生を目指すことにする。
Bがaに頼まれたのはCのクローンを作ること、
ただこの研究を続けるうちに結局成功してもそれはCと同じ姿の別人な事に気づいた頃には
Bも落ち着いており研究の成果のおかげで教授職まで到達し、家庭も築いていた。
そんなある日にBの前にaが現れ、Cの蘇生を諦めたBを罵ると自分の研究を手伝えと言って来た。
半ば贖罪のつもりでaの研究に付き合うことに決めたBはaの研究、
「時間とは脳が錯覚させたものであり、本来は繋がっていない」という理論の元、
時間を司る部分を壊すことによりタイムスリップを達成するという実験の被検体になる。
深部の細胞を壊す医療用レーザーで脳の一部を焼ききる。
だが、自分にタイムスリップした感覚も無く同じように自分にも施したaも失敗し、落胆して去っていった。
だが、帰宅し眠った後に目覚めたBは実験の日からすでに三日経過していた。
しかも周りの人間はBはその間、普通に過ごしていたといいBは自分がタイムスリップしたのだと自覚する。
職場の近くでふらついていたaに再開したBはaに問いただすが何故かやつれていたaはBに言う。

309 名前:酔歩する男 2/2 :2010/10/20(水) 21:19:16
a曰く「自分たちの実験は成功したが覚醒している間は脳が壊れた部分を補うためにタイムスリップをしない、
そのため、意識を失ったときにタイムスリップするのだと。
また、実際に肉体が時間を越えている訳ではなく意識のみが時間を越えており、
その意識が観測した時点で時間が固定されて、その間の生活が定着し、観測されなかったものは消滅する」。
要するにシュレディンガーの猫だとaは言う。
付け加えるようにaはBに言う、「お前と会うのはこれが最後だと思う、自分はすでに100回以上経験している」と。
aの言っていたことが分からなかったその後、最初はタイムスリップを利用し邪魔なaからタイムスリップ実験をしたという
事実を消すことに成功(Bのみ実験しaは出来ないようにしそれを観測、固定した)し、
有意義に利用していたがタイムスリップが無自覚のものであり、自分で行く先を指定できないことに気づき、
延々と同じ日を繰り返した挙句、ある日彼の子供時代まで飛ばされてしまい
積み上げてきたもの全てが観測されていない為、時間軸上から消滅してしまう。
また、いくら時間を遡っても脳が壊れていなくても
Bの意識のどこかが壊れているために無限にタイムスリップを繰り返してしまうのだと。
その為、死のうとしても意識を無くした時点で死ぬ前の時間軸に飛ばされてしまうだけなのだと言う。
そして今現在話しているAはBの時間軸とは異なる存在なのでAにBの面識は無いのだと。
AはそこでBにCはどうしたのかと質問する。
それを聞いたBはCはそもそも存在せず自分達が行った実験により
歪んだ時間軸が作り出したものだったのではないかという。
つまり、順序が逆だったのではないかと。
そしてBはAに「壊したものは絶対に戻らない、それは自覚する事で…」と言いながら途中で忽然と消える。
Aは夢だったのだと思い、帰宅しようとするが帰宅途中のもの全てが考えれば考えるほど曖昧な存在になっていく、
やがて、会社と自宅の往復を意識すれば曖昧になるため何も考えずに繰り返すだけの生活になったAは自宅で
料理をする妻の背中に問いかける。
「お前は誰だ?」「私は歪められた因果律、私はC」

311 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/20(水) 21:30:48
我ながら意味わからねぇ…
説明の難しい部分、特にタイムスリップについて。
この作品においてのタイムスリップの基本は観測です。
例えば宝くじを買ったとして回答日に飛べば、宝くじを買っているという事実は残っていますが
当たり番号は観測された時点で決まるので必ずしも当たるとは限りません。
また、逆に回答日から前の日に戻って当たり番号と同じくじを買っても、
前の日に戻った時点で観測されていた当たり番号という事実はこの時点では
観測されていないために消滅しており必ずしも当たりません。
つまり、とどの役にも立たないのが本作のタイムスリップです。

313 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/20(水) 22:10:22
つまり、無限ループって(ry

過去に戻れば戻るほど、これまで積み上げてきた人生が消滅するということか。
無限地獄。


314 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/20(水) 22:11:00
>>311
それだと、1度観測しても、それより前に遡って観測したら、最初に観測した事実は消滅することにならない?
>aからタイムスリップ実験をしたという 事実を消すことに成功(Bのみ実験しaは出来ないようにしそれを観測、固定した)
の部分が不可能になってしまわないかい?
最終的にBが子ども時代までタイムスリップしてるから、どちらにしろ消滅するんだろうけど

316 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/20(水) 23:37:48
>>314
手元に本があるので確認したけど311とはちょっと流れが違うような?(端折ったのかもしれんが)

このあとBもタイムトラベルに疲れきり、三度目の実験の日に、二人とも実験しないのを観測・固定する。
これでタイムトラベラーでなくなった…と安心して眠るが、目覚めたのは1週間前だった。
Bにも本当の理由はわからないが、おそらくは、実験により脳と同時に精神の一部も破壊された。
その精神を完全な脳に移しても(実験をしなくても)、
破壊された精神(タイムトラベル体質)は元に戻らないのではないか、という考えだった。

個人的にこの話の後味が悪いところは、BにあうまでAは自分がタイムトラベラーと知らなかったこと。
Bは時間を認識・制御する能力がないので目覚めるたびに違う日なのだが
Aはその能力があるため時間は正しく流れている。
しかし実験によって波動関数を再発散させる能力が破壊された。
Bは問う。「本当に街は昨日のままか?昨日の職場と今日の職場は同じか?友達に見知らぬ人は?」
プロローグにて、Aは深く気にしていなかったが、行きつけの店にたどり着けなかったり、
つぶれたのかと思ってるとひょっこり見つかることがよくあると描かれている。

しかしBに会ったことで、その現象を強く認識してしまう。
朝していたはずの腕時計がない、忘れたのか?
あれ、降りる駅を間違えたか?家には何時に帰れるのか…無意識にみた腕には時計がある。
あの人は知り合いか、この駅は最寄り駅か、俺の職場はここか…
Aの現実は現実味を失い会社と家を往復する以外恐ろしくなりできなくなってしまった。
これ読んだ後はちょっとだけ自分もふわふわと地に足が着かないような気持ちになる。


317 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 00:09:08
乙。2つともめちゃくちゃ面白かった。
特にタイムスリップの話興味深いねえ。小林泰三の本買ってみようかな。

318 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 05:25:25
>>308

内容よりも何故Aをaに置き換えたのかが気になるw


319 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 07:18:12
>>318
現在の時間軸のAと、Aには覚えの無い「Bの語るA」を分けて語るためかと。

>>309
歪んだ時間軸だろうとその中で生きてる人にはそんなこと自覚ないだろうに
いきなり「私は歪められた因果律」とか言い出す妻koeee。


320 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 07:59:21
>「私は歪められた因果律」とか言い出す妻koeee。

厨二病か邪気眼としか


321 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 11:25:51
中二病っていうか、その妻はもともとわけ分からない事いう
不思議な存在だった。何か人間を超えた存在って感じ。
色に味があるとか言い出したり、時間感覚も普通と違ってた。

322 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 11:47:22
昨日の小林泰三の投下したものですが、

>>316
補足ありがとうございます。仰るとおり面倒だったのではしょりましたw
妻のCについては色々と説明が難しいのですが…
この小説はラブクラフトに多大な影響を受けています。
そのラブクラフトの作品によく出てくるニャルラトホテップという邪神がCのモデルだと思われ、
無貌の神と呼ばれ何にでも変身でき、目的は人類に対する(致命的な)嫌がらせのみという質の悪い存在です。
なのでCも導いてるようで単純に破滅させるだけの存在なのかと…


325 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 13:41:33
>色に味があるとか言い出したり
共感覚だったかな?
そういう人はいる。音を聞いたら色が見えて、味覚に音階を感じたり。

ある小説に登場してて創作と思ったら事実でおったまげた。


326 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 13:51:09
>>325
ディスカバリーチャンネルかなんかで観たわ。
脳の、色を感じる部分と音や味覚を感じる部分が繋がってるとかいう話らしい

327 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/21(木) 14:30:11
>>325
それはそうなんだけど、時間感覚も変わった感じの人だったので、
「共感覚を持つ一般人」ではなくて、
人間とは違う次元で生きてる人間って感じで描かれていた。
Aは恋に目がくらんでたので、彼女をただの不思議ちゃんだと
思ってたみたいだけど。

そもそもBはCを生き返らせる事は成功してないのに、
いつのまにやら生き返ってAの妻に落ち着いてるあたりで
普通の人間じゃないってわかる。


332 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/22(金) 02:15:41
小林泰三の書く話って殆ど後味悪いですよね。そこが良いんですけど。
ここに書こうと思って本全部読み返したけど結局どれ書くか決まらなかった…

 

玩具修理者 (角川ホラー文庫)
玩具修理者 (角川ホラー文庫)