一命

864 名前:一命 1/4 :2011/11/17(木) 16:51:01.54
映画『一命』。そろそろ公開期間が終わりそうなので書く。

江戸時代初め、関ヶ原からすでに十数年を経て太平の世となっていた。
その一方で、幕府による些細な落ち度をあげつらっての
苛烈な大名の御家取り潰しが相次いだために浪人が巷にあふれていた。

そんな食い詰めた浪人たちの間で「狂言切腹」なるものが流行していた。
元はといえば、どこぞの浪人者がさる大名家を訪れ、
「武士の名誉を守るため切腹する、ついてはご当家の庭先をお借りしたい」と申し出たことに、
その家のある意味おめでたいお殿様が「その心がけ天晴」と感じ入ってその浪士を召し抱えたのだという。
その噂があっという間に広がり、裕福な大名家に「庭先で切腹させろ」と押しかける浪人者が相次いだ。
しかし世の中おめでたいお殿様ばかりではないので、たいていはいくばくかの金子を渡されて追い返されるのだが、
今度はその金子を目当てに切腹を願い出るものが続出。
貧乏長屋の町人にまで「結局はゆすりたかりじゃねーかw」と馬鹿にされる始末であった。

そんなある日、名門・井伊家の門前に一人の侍が切腹を願い出た。名は津雲半四郎。
元福島家家臣だという。江戸家老・斉藤勘解由は自らその男と面談する。
斉藤から「お前と同じ元福島家家臣の千々岩求女なる者を知っておるか」と問われ、知らないと答える津雲。
改易で藩を離れた家臣は数百人に及ぶから、と。
斉藤は、数か月前に同じように訪ねてきた若い浪人・千々岩求女の狂言切腹の顛末を語り始める。


865 名前:一命 2/4 :2011/11/17(木) 16:51:51.93
千々岩求女の様子から、斉藤以下上屋敷を守るものたちは明らかに狂言切腹だと察していた。
だが、求女に死に装束を着せ、切腹の場に追い詰める。
求女は命乞いをし、せめて一日いや一刻の猶予をいただきたいと願い、
ついには自分は死んでもいいから病気の妻子のために三両ほしいと言い出す。
ほれ見たことかという空気になった井伊家家臣団は求女を侮辱し「武士に二言はなかろう」と追い込んでいく。
さらに「せっかくだからその方が持参した脇差で腹を切るがよろしかろうw」と
切腹用に用意された刀を求女のものと取り換える。
求女の脇差-それは既におそらく生活のために売り払われており、竹光だったのだ。

さすがに見かねてか、家老斉藤が自身の脇差を貸し与えようとするが、覚悟を決めた求女はそれを断り
竹光を己の腹に突き刺すのだった。竹製の偽刀が切れるはずもなく、
何度突き刺してもいたずらに苦痛を長引かせるばかり、だが介錯役の家臣沢潟は動かない。
それどころか「もっとちゃんと腹をかっさばけ」
「かきまわすんだよw」と煽る(まあそれが正式な作法ではあるらしいのだが-本物の刀でさえあれば)。
ついに見るに見かねた斉藤が沢潟を押しのけ自ら介錯する。それは壮絶で悲惨、無様な死にざまであった。
さすがにそれ以来、井伊家の門を叩く浪人者はいないという…。


866 名前:一命 3/4 :2011/11/17(木) 16:52:48.82
という話を聞いてもなお揺るがず切腹を求める津雲。
切腹の場に座り、最後の願いとして介錯人として沢潟松崎、川辺の三人を指名する。
その三人は求女の折にも介錯人を務めた者たちであった。
斉藤は不穏な気配を感じつつも最後の願いを聞き届けようと三人を呼びにやるが、
三人とも昨晩から役宅に戻っていないという報告が返ってくる。動揺する家臣たち。そして津雲が自分の半生を語り始める。

津雲はやはり求女を知っていた。それどころか、敬愛する先輩の遺児であり、
苦しい生活の中でも実の娘と分け隔てすることなく育ててきた。
やがて津雲の実娘と求女は夫婦となり、名実ともに津雲の息子となった。
だが生活は厳しく求女は亡父の残した書物を少しずつ売り払うような有様だった。
加えて津雲の娘・美穂は幼少のころより体が弱く、ついに胸を病む。
(おそらくこのころ刀も売り払ったものと思われる。)

さらに悪いことは続き、求女・美穂夫婦の赤ん坊が病を得る。医者は三両用意すれば見てやると言ったという。
求女は津雲に妻子の傍に居てやってほしいと頼み、三両のあてがある、昼過ぎには戻ると言い置いて出ていく。
だが、日が落ちても求女は戻らない。祈る思いで待つ求女だが、ついに夜半赤ん坊の息が絶える。
皮肉にも求女が無言の帰宅をしたのはその直後であった。求女の遺体を運んできた井伊家の下人は
求女が井伊家に切腹を願い出て立派に果てたと告げ、ご家老様より預かったと三両を渡す。
津雲はそそくさと帰ろうとする下人たちを追いかけ、問い詰めて真相を知る。
家に戻ると美穂が求女と赤ん坊と寄り添うように自害して果てていた…。


867 名前:一命 4/4 :2011/11/17(木) 16:54:16.42
津雲に気圧される一同。それでも斉藤は狂言切腹など許されることではない、武士の面目が立たぬと言い切る。
津雲は懐から切り落とした髷を三つ取り出して投げ捨てた。
自分は三人から命までは取らなかった、代わりに髷をいただいた。
しかし、当の三人はそれを恥じて出仕もせず隠れておられる様子、
ご家老は武士の面目と申されるが、はて辻褄のあわぬことよ。言葉に詰まった斉藤は斬り捨てよと命じる。
刀を構える家臣たちに囲まれ、津雲がおもむろに抜いたのは竹光であった。
だがこの竹光で津雲は次々に家臣たちの面を打ち胴を打っていった。
(つまり、真剣ならかれらは死ぬか大けがをしていたはず) 
だがさすがに多勢に無勢、ついには竹光が折れ、津雲は斬られ死んでいった…。

津雲に髷を切られた三人は「武士の面目を汚した」として切腹を言い渡された。

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そりゃ大名家にしてみれば「死ぬ死ぬ詐欺」は迷惑きわまりないし、ゆすりたかりには違いないし、
井伊家としては一罰百戒を狙ったんだろうけど、これでもかこれでもかと津雲家・千々岩家の
困窮生活を見せつけられるともうなんとしたらいいやら。
斉藤さんも本質はいい人っぽい(脇差貸そうとしたり偉い人なのに自ら介錯してやったりちゃんと
三両くれたり)のがよけい後味悪い。
確かに意地悪三人組だったけど、ある意味巻き添えで切腹するはめになったのも後味悪い。

 

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