グランド・ブルテーシュ奇譚(バルザック)

761 名前:1/2 :2012/06/30(土) 00:45:47.99
バルザック「グランド・ブルテーシュ奇譚」

フランスがスペインと戦争をしていた時代、ある町に伯爵夫妻が暮らしていた。
伯爵は気性の荒い美男、伯爵夫人は信心深い美女で二人は愛し愛されて結婚した。

ある時から夫人は頭痛を愁え、夫とは寝室を別にするようになった。
夫人の寝室には窓のない
小部屋があり、衣装部屋になっていた。

町には当時、スペイン人捕虜が政府の費用で暮らしていた。
(訳注によると、捕虜が増えすぎたので、逃亡も参戦もしないと宣誓した捕虜を仮釈放する法律が作られたそうです)
捕虜の一人にスペイン貴族の美青年がいて、夜の「散歩」が日課だった。

ある夜、町のクラブから早めに帰宅した伯爵は、寝る前に夫人の顔を見ておこう、と気まぐれをおこす。
今日の妻はいつもより美しく見えた、きっと体調が回復しつつあるのだ、遅くまで話しても身体には障るまい。
(夫という生き物は何にしても気づくのが遅いのだ)

伯爵の足音が響く。
夫人の寝室の扉を開けると同時に小部屋の扉が閉まる音がした、と伯爵は思う。
きっと夫人付きの小間使いが小部屋にいるのだろう。
しかし伯爵の勘が警告を発する。


762 名前:2/2 :2012/06/30(土) 00:47:31.04
小部屋にいると思った小間使いが、廊下側の扉から登場する。寝る前の身支度を手伝うためだ。

伯爵は尋ねる、小部屋に誰かいるのかね?
夫人は否定する。
伯爵は小部屋の扉に手をかける。
夫人は伯爵を押し止める、信用なさらないのならあたくしたちの仲はこれまでですわ。

伯爵は部屋にあった、黒檀に銀象嵌の見事な十字架を夫人に突き付ける。
小部屋には誰もいないと神のおん前で誓え、そうすれば扉は開けない。
夫人はそのスペイン風の十字架を手に、宣誓する。

伯爵は左官を呼び、小部屋の扉を煉瓦と漆喰で封印させる。
機転を利かせた左官は、隙を見て扉の窓ガラスを割る。
夫人と小間使いは、暗闇の中にスペイン人の褐色の美貌を見る。
夫人は身振りと表情で、希望を捨てるなと伝える。

作業が終われば朝である。
伯爵は用事があると偽り、寝室を出る。
夫人はツルハシを手に封印を破りにかかる。
伯爵が音もなく背後に立つ。夫人は失神する。

奥様はご病気だから私が介護する。食事はこの部屋に運ばせろ。
残酷な貴族は夫人に二十日あまり付き添い、その後は別居して放蕩を重ねた挙げ句に死んだという。

小部屋からは数日の間、弱々しい物音がきこえた。
錯乱した夫人が何かいいかけるたびに伯爵は押し止める。
小部屋には誰もいないと、お前は十字架にかけて誓ったのだぞ。


763 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 00:49:35.45
自業自得

という言葉が思い浮かんだ。
伯爵は可哀想だけど。


764 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 02:13:50.07
奥様はご病気だから私が介護する。食事はこの部屋に運ばせろ。
残酷な貴族は夫人に二十日あまり付き添い、その後は別居して放蕩を重ねた挙げ句に死んだという。

この部分がよくわからん


771 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 03:25:48.42
>>764
夫人が小部屋の煉瓦を壊さないように見張ってたって事だろ。
二十日経って完全に夫人の愛人が死ぬまで見張り続けた。
自分はそこよりも、左官が気を使って窓を割ったって所がわからない。
どこの窓?何のために割ったの?

772 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 03:45:26.34
それまで「貴族」という単語を使ったのは浮気相手の若者に対してだけなのに、
急に伯爵に対して貴族って言葉を使っちゃった
伯爵なのに「奥様」とか「ご病気」とか言わせちゃった
これが分かり難い原因だろね

割った窓ってのはそのまんま扉の窓だろう
手振り身振りで最後の一言を伝えるために
窓ガラスったって多分磨りガラスだか柄入りだからで中が窺えるようなものじゃなかったんだろう
じゃなかったら伯爵が中を確かめるまでもなく外から若者丸見えだし


775 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 05:23:58.39
愛しあって結婚したふたりなのに
奥さんはどうして浮気(?)したの?
旦那を愛してるけど夜はやっぱり若い男が良いってこと?

奥さんがスペイン人(捕虜?)を本当の善意で
ただかくまってただけならまだ
なんとなく後味悪いけど、間男作って夜な夜な
いちゃついてただけなら、自業自得に思える


780 名前:補遺1/2 :2012/06/30(土) 08:55:47.58
残酷な貴族云々は、訳文をそのまま引き写した。

左官が気を利かせて窓ガラスを割った云々は、夫人が小間使いに
伯爵の隙を見て、左官に(後で壊しやすいように)
扉と煉瓦の間に隙間を作るように言えばお小遣をあげる、と囁いて、
「さあお前、手伝っておやり!」と促した。
で、左官が何かあると思って気を利かせた。

夫人がなぜ浮気したのか?
伯爵は美男で大男で短気で尊大な性格だった。
美男なので町の女たちの憧れの的だったが、なにしろ気性が激しいので、
「奥様は辛いこともあるでしょうね」との評判だった。
尊大な性格は、
「お貴族様だから当たり前」


781 名前:補遺2/2 :2012/06/30(土) 08:57:21.62
黒檀の十字架は、伯爵が初めて見るものでスペイン風のデザインだった。
こんな物いつ手に入れた?と訊かれて、夫人は
「町の宝石商から買いました、前にスペイン捕虜の一団が町を通り掛かった時に、
 スペイン人修道士から買い取ったそうです」
と言い訳する。
伯爵は翌朝、宝石商を呼び付けて夫人の目の前で
尋問する。
宝石商は当然、否定する。

これは5年前の事件。
町に滞在した高名な医師(バルザックのレギュラーキャラの一人、ビアンション医師)が、
町の公証人・宿の女将・宿の女中(元は夫人の小間使い)から聞き出した話。
夫人は、自分の死後50年間は館を立入禁止にして荒れ果てるままにするよう遺言を残した。

余談。夫人の小間使いと例の左官は恋人同士だが、お金の問題で結婚できずにいた。
左官は伯爵から多額の口止め料を貰ったが、五年後の現在、美しい小間使いはまだ独身。
結婚なんて不幸になるだけ、宿の女中は天職ですわ、と寂しく微笑む。


782 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 10:47:59.57
>>761と762がわからないなんて、どうかしてる・・。
補填部分はうれしいね、味のある内容だった

愛し合ってないなら結婚しなきゃいいのに、
あげく間男を匿う為に、離婚をたてにして、扉をあけさせない上
十字架の前ですら嘘をつくなんて、ものすげークズじゃん、
ここまでされたら、間男を目の前で顔面グチャグチャにするよ。
んでスッキリと別れてやる。

本来浮気した側が土下座して許しを請う立場だろ。
開きなおってんじゃねえよと。


783 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 11:03:44.82
>>782
愛し愛され結婚したって書いてあるお。

785 名前:本当にあった怖い名無し :2012/06/30(土) 11:28:08.68
>>783
より酷いよな

786 名前:補遺の補遺 :2012/06/30(土) 11:38:06.84
>>781
扉の窓ガラスについて。
原文にはないが、おそらく明かり取りの小窓で、ご指摘のとおり磨りガラスか色つきガラスなのだろう。

スペイン貴族は「身長160cmそこそこ」の華奢な美青年で、温和な性格だった。
ビアンション医師が滞在した宿に泊まり、川で「魚のように見事に」泳ぐか教会に出入りするかの生活だった。
教会ではいつも夫人の指定席の近くに座っていた。そこに意図があったのかどうかはわからない。
「だってスペイン貴族は祈祷書から顔を上げもしなかったんですよ」
by宿の女将

スペイン貴族は川で溺死したと思われた。
憲兵が宿の部屋を探ると、金貨とダイヤモンドの包みを女将あてに残してあったのが見つかった。
これで私のためにミサをあげてもらってくれ、との手紙あり。
覚悟を決めていたのかもしれない。

 

グランド・ブルテーシュ奇譚 (光文社古典新訳文庫)
グランド・ブルテーシュ奇譚 (光文社古典新訳文庫)