笑う椅子(中井英夫)
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832:1/2:2013/09/13(金) 22:33:06.79
- 中井英夫「笑う椅子」
外国のファッション誌に夢中になっていた明子は、一人息子の声が聞こえない事に気づいた。
また姑の部屋だ、と舌打ちしたい気持ちで離れに行くが、息子はいない。
姑は電気もつけずに月光の庭を見ている。
「お義母さま、忠博はこちらに参っておりませんの?」
「さあね、おおかた庭で遊んでいるのだろうよ。お前さんに似て月の光が好きなようだから」
姑は明子が結婚前からの恋人と不倫中なのを気づいていた。
明子は夫の留守に恋人と庭で戯れていて、女中には口止め料を握らせていたが、姑はとっくに口を割らせていた。
「結婚前にケリをつけたものだと、探偵の報告を鵜呑みにしていたが…」
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833:2/2:2013/09/13(金) 22:34:20.78
- 「あたしゃよーく考えたんだ、忠博は息子の種じゃない、不倫の托卵だってね…
どこにやった、って?さあね、古井戸のへんで遊んでいるのだろうよ」古井戸の横に食堂の椅子が踏み台のように置かれていた。
井戸の蓋は外れている。
わざわざ椅子を運ぶくらいだ、幼児を椅子にのぼらせて井戸を覗かせ突き落とすだけでは足らず、
細い首を絞め上げて死体を投げ落としたに違いない!
…明子は椅子を引きずって離れに戻り、
「どうおしだい、お前のかわいい忠博は」
と揶揄する姑を椅子で殴打した。背後で忠博と女中の悲鳴がした。
姑は明子を問い詰める前に、ちゃんと孫を女中に子守りさせていたのだった。短編の中の1エピ。これが一番後味悪かったのでピックアップした。