不可解な理由(スタンリイ・エリン)
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535:1/5:2014/01/10(金) 11:21:08.03
- スタンリイ・エリン「不可解な理由」1978年
一流大企業A社の中間管理職、ラリーは珍しく長距離バスに乗った。
地下鉄を使うつもりはないのでバスターミナルでタクシーを拾うと、
運転手はかつての同僚ビルだった。
ビルは部長補佐にまで出世したが組織再編で早期退職に追い込まれ、
家を売り、ラリーも住んでいる高級住宅地B街から去った。うまいデニッシュペストリーを食わせる店があるんだ、
そう急ぐわけでもないんだろう、話しがあるんだ、
と言われてタクシー運転手の溜まり場に連れて行かれた。
確かにペストリーはうまいが柄の悪い連中が集まる店で、
ビルはこのみすぼらしい店に馴染んでいる。
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536:2/5:2014/01/10(金) 11:23:11.33
- 妻は子供を連れて離婚し、パートで生活しているそうだ。
ビルは語り始めた。彼らと同じく中間管理職だったB街住人の某は、
地方部門と全国部門を統一して人員削減すべし、という重役のお達しでリストラされた。
B街は高級住宅地だが所詮中間管理職用、出世すればもっと高級なC街やD街に越していく。
失業後に同等の仕事が見つからなければ、ビルのように都会のスラムに越していく。ビルは平凡な中間管理職だが、勤続年数が長いので定期昇給が嵩む。
昇給なしで定年までいさせてくれ、と交渉しても一流大企業が社則を曲げるわけにはいかない。
それに、同じ給料なら優秀な若者を雇った方がいい。
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537 :3/5:2014/01/10(金) 11:25:17.80
- ビルの秘書も勤続18年でリストラされた。
そりゃそうだ、彼女一人分の給料で若くて可愛い秘書が二人雇えるのだから。
唯一無二の人材ならA社も金を惜しまないだろうが、ビルは無能なのだ。ラリーは大学を平凡な成績で卒業してから苦労を重ねてA社に中途採用され、
中間管理職にまで登り詰めた。これ以上の出世は無理だと自覚している。
ラリーの家には資産らしい資産がない。
家は10年、車は2年のローンが残っているし、前月分のカードの支払いで精一杯だ。
息子二人の学費の為に投資信託をしているが、二人とも特待生になれる頭の持ち主ではない。
ビルは不眠に悩み、酒を飲んでやっと浅い眠りを得た。
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538 :4/5:2014/01/10(金) 11:28:17.93
- 息子の高校の文化祭で、
数学教師に転職を考えていると教頭に話してみるが、こんな返事が帰ってきた。
どこの学校も生徒数が減っていて、教師をどんどん馘にしている。
それに一流の教師が日々勉強に励んでいる間、あなたは何をしていらっしゃいましたか?
ラリーは歯ぎしりと目蓋の痙攣に悩むようになった。
妻はラリーの苦悩に気づいていない。反りの合わぬ重役が、ラリーの部門と他部門を統合すると言った。
それについて副社長との面談が明朝9時にある。
知っていると思うが、副社長は遅刻がお嫌いだ。気をつけたまえ。ラリーは翌朝9時、ショットガンをコートの下に隠して重役専用フロアに足を踏み入れた。
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539 :5/5:2014/01/10(金) 11:35:17.30
- 副社長以下5人を殺したラリーは警備員に射殺された。
A社では就職希望者全員に厳重な人事考査をおこなっている。
人事部所属の心理学者は、ラリーの危険性を見抜けなかったという理由で馘首された。日本はアメリカを追いかけているのかな、
アメリカは昔から病んでいたのかな、と思うと後味悪い。