ふらんだーすの犬(橋本治)

785 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 19:28:07
「ふらんだーすの犬」という短編。
6歳の男の子が児童虐待の末殺される話なので、後味良いわけ無いんだけど、
話の内容とは別に独特の後味の悪さを感じた。上手く説明出来るか、わからないけど…

まず、ざっとあらすじ。
ややDQN家庭に育った女。「結婚すれば幸せにしてもらえる」と夢見て18歳で結婚、
出産するも赤ちゃんの面倒が上手く見れず、旦那もいいかげんなヤツで即離婚。
子供を自分の母親に預け、自分は「若い女の子」に戻り、気ままに暮らしていると
付き合い始めた彼氏が、生活をガラッと変えたい程度の気持ちでプロポーズしてくる。
そこでバツイチ子持ちを告白すると、意外と「いいんじゃない?」て反応。
単に彼氏は「深く物事を考えて無い」だけだったが、
「この人は私の全てを受け止めてくれる!この人なら私を幸せにしてくれるかも」と思い込み再婚。
小学1年生に成長した息子を引き取って、3人で生活する事になるが、
自宅へ連れ帰る、そのアパートの階段で最初の虐待が始まる。


786 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 19:30:13
それからずっと虐待を受け続けるんだけど
死に至るきっかけになったのは、連日小雨の降る中、ベランダに作った段ボールの「家」に
ガムテープで口塞いで、手足を縛った状態で放り込まれ、6日間放置されたから。
そうされた理由は、全部処分したはずの前夫との結婚式の記念写真を、この子が持っていたのを見つけたから。
祖母宅に預けられていた時から、この写真をずっと宝物にして持っていたんだけど
「これが僕のお母さん。お姫様みたいで優しそう」と思ったから、大事に宝物にしていた。

やるせないんだけど、冒頭でこの男の子が
「不法投棄された黒いゴミ袋が、川を流れていくのをじっと見ている」場面から始まるので、
最悪の結末(この子が殺されて、ゴミ袋に入れられ川に棄てられる)を予想していたんだよ。
でも、死ぬ間際に病院に運び込まれ、看護婦さんに「大丈夫、大丈夫よ」と声をかけられ介抱されて、
一瞬嬉しそうに笑った後、苦しそうに息を吐いて心臓が止まる。
朦朧とした意識の中で「お母さんが優しくしてくれて良かった」と思って死んでいくので、
それがせめてもの救いだった。いや、むしろ辛いんだけど、もうこれ以上酷い目に遭わなくて良かった。


787 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 19:31:56
で、後味悪く感じたのって実は内容自体よりも、
「ふらんだーすの犬」という題に対してなんだよね。
犬、絵画、「フランダースの犬」に関する事は、一切出てこないのに、なんでこの題にしたのか?
平仮名にしてるのも、軽い印象だし。
他に一冊も読んでないので、あまり軽はずみに決め付けられないんだけど、
作者は橋本治。代表作は「桃尻娘」で、最近のベストセラーは「上司は思いつきで物を言う」
読んでないから題名からだけの判断だけど、普段はこういう作風で、「たまには違うジャンルで書くかな」って感じで
「泣かせる話」を書いてみたのかな… いや、決して貶してるわけではなく。

なんでこの題?って考えて、
結局「チビッコ死んでカワイソス。最後にいい事あってよかったね」くらいの意味で付けた題なのかな、
と思うと微妙な気持ちになった。
読んで泣きすぎて眠れなくなり、それから何日も死んでしまった「こうたろう君」の死ぬ間際の表情や、
苛ついた養父が来た時のこわばった表情を、見たように思い浮かべて激鬱になってたんだけど。
題がもっと違ってれば、号泣して終わってたのが、なんかもやっとして納得いかなくて…
題名だけでなんで?って思われるかもしれないけど、急に「中年男性が書いた創作話」なんだと意識させられた。
凄く心に残る話だっただけに、後味悪い…


788 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 19:47:02
酷いハナシだー

でもって、たしかに何かひっかかるタイトルだね。
自分的には
「こんな俺がこんな話かいてみちゃったけどどう?」みたいな印象。


790 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 20:26:45
787の後味悪いポイントと違ってて悪いが、それはその中年男の
書いた創作話というより現実におきた虐待事件のつぎはぎ話っていう
事実の方がやるせない。

791 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 20:29:37
>785
男の子が一枚の写真を心の糧に生きていたことを、
ネロにとってのルーベンスの聖母画とかけているんじゃないの?
それとベランダのダンボールの家ってのを犬小屋とかけてるんでしょう。
ちゃんと意味あるように思えるんだけど。

792 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 20:36:58
>>791
それだ!!頭いいな。絵の方は気づいたけど、犬小屋は全く気づかんかった。
ネロは聖母画を見たい見たいと切望して、最後に願いがかなって
その美しい絵をみれたんだよね。
その男の子は美しく優しい(写真の)母親に憧れ切望して、
最後に願いがかなうんだ。実際は違うけど・・・。
たぶんそのまま「フランダースの犬」って題は使えないんじゃないのかな?
あるいは一緒にしてしまうとややこしくなるからかも。

793 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 20:45:12
その内容で題名を全く同じにしてしまうと
クレームの嵐が容易に予想されるからでは?

794 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/01/18(水) 20:47:18
いや、皮肉って平仮名にしてるんだと思う。

795 名前:785 投稿日:2006/01/18(水) 21:00:05
「ふらんだーすの犬」そういう事なんだろうけど、やっぱり納得いかない…。
なんていうか、話としては本当に心に残ったんだ。多分何年経っても忘れない。
それだけに「適当な題」な感じがして、すっきりしないんだよ。
孝太郎が、虐待受けながらも「お母さんに好きになってもらいたい」と思っていて
祖母の元に戻らず母親と一緒にいたいと願う気持ちとか、
いつもは「アレ」とか呼ばれてるのに一度「コー、帰るよ!」て呼ばれた時の嬉しさとか、
母親に対する、刷り込みのような、無条件の愛情を「ふらんだーすの犬」て題にしてほしくなかったなあと思う。
子が親に対して思うのとは反対に、母親側は「無条件の愛情」が無くて、
「もう失敗したくない、捨てられたくない」から夫を優先するんだけど、
この辺の心理は凄く書き込んでるのに、段ボールに子供を放置した時の心理は
「自分でも説明できないが、そうしてしまった」みたいな描写なのも、引っ掛かる。
そういう心理も有るとは思うけど、もっと突っ込んで書いてほしかった。
2ちゃんの書き込みなら「DQN母氏ね!」「去勢しる!」で終了だろうけど、
虐待ってテーマに取り組むんなら、何故DQNな行動になったのかについて書いて欲しかった。
そういう「半端な感じ」がどうにも気になる。

熱く語り過ぎたかも。スマソ。

 

蝶のゆくえ (集英社文庫 は 12-5)
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