クリープショー3/第2話「ラジオ」

880 名前:その1 投稿日:2008/07/22(火) 21:25:42
 私もクリープショーネタで投下。
 『クリープショー3』からの一編。

 警備員として働く、冴えない青年ジェリー。
 いつかこの街を出、華やかな都会へ旅立つために節制を重ねた生活を送っている。
 彼が住むアパートは、売春斡旋業者が娼婦を囲っている様な安宿だ。
 金づるにもならないジェリーは、売春ブローカーの鬱憤晴らしにからかわれたり、
 恫喝されたりする日々にウンザリしている。
 そして娼婦たちはジェリーを路傍の石ほどにも気にかけていない。

 だが、ただ一人の娼婦だけはジェリーの存在を意識し、身をくねらせながら親しげに話しかけてくれる。
 女を買うなどという事は有り得ないのを知っているにも関わらず、いつも自分に話しかけてくれるのだ。
 彼女の存在はジェリーの味気ない生活に潤いを与えてくれる、一服の清涼剤の様なものだった。

 部屋でのんびりとラジオを聴きながらくつろぐ。
 それが彼の最大の楽しみであり、贅沢だった。
 しかしある夜、大事なラジオが壊れてしまう。
 慌てたジェリーはラジオを買うため夜更けの街に繰り出した。


881 名前:その2 投稿日:2008/07/22(火) 21:26:15
 やがて、彼は路地裏で足萎えの老人が開いている露店を見つける。
 そこにはリモコンだの何だのとガラクタが並んでいた。
 耳障りな大声で客引きをする老人から安価でラジオをせしめ、嬉々として帰宅する。
 懸命にチューニングするジェリーだったが、ラジオはアンテナの壊れたジャンク品だった。
 「こんなもんだよな」
 あんな得体の知れない露店で買った自分の愚かしさを呪う。
 安いとは言え、金は金だ。
 むざむざドブに捨てた気分がして、怒りが湧く。
 思わずラジオを壁に投げつけようとした時、声が聞こえた。

 「駄目よ」

 女性の声。
 ジェリーは慌てて周りを見回すが、勿論誰もいない。
 改めてラジオを投げようとすると、再び声が聞こえた。
 「駄目よ、ジェリー」
 ラジオだった。
 壊れて、受信も出来ないラジオが喋っているのだ。
 恐慌にかられるジェリーをなだめるラジオの声。
 ネバっこい色気を伴った声。

 やがてジェリーは喋るラジオとの共同生活を送るようになる。
 ラジオは彼の食生活や身だしなみ、あらゆる物事に対して的確なアドバイスをくれる。
 最早ジェリーの信頼は全てラジオに向いていた。

 ある夜、ラジオは売春ブローカーがピンハネした隠し金の在り処を伝える。
 ラジオの指示通りに廃ビルへ向かい、見事大金をせしめるジェリー。
 これでこの街ともおさらばできる。


882 名前:その3 投稿日:2008/07/22(火) 21:27:30
 念のため数日置いて、荷造りを始めるジェリー。
 そこに娼婦(いつも話しかけてくれていた女性)が飛び込んでくる。
 彼女は例の隠し金を盗んだと思われ、虐待されていたのだった。
 「お願い、私も一緒に連れて行って!」
 懸命にすがる彼女を無下に出来ず、ジェリーは承諾する。
 だが、娼婦が荷物をまとめに去った後、ラジオが彼を非難し始めた。
 「彼女は危険だわ、ジェリー」
 「でも、放ってはおけないよ!」
 ジェリーは紛れもなく、娼婦に恋していたのだ。
 ラジオの制止を振り切り、彼女と共に車に乗り込む。

 少し走った後、彼女が身だしなみを整えたいと言い出し、公衆トイレへ向かう。
 娼婦がトイレへ行ったのを見計らい、ラジオが警告を発する。
 「ジェリー、あの女は貴方が大金を持っていると知ったら、平気で貴方を殺すわよ」
 それを否定するジェリーは発作的にラジオを投げ出し、グシャグシャに踏み潰す。
 「彼女は! 彼女はそんな女じゃない!!」

 次の瞬間、背後からの銃弾がジェリーの心臓を撃ち抜いた。


883 名前:おわり 投稿日:2008/07/22(火) 21:28:37
 倒れ臥す彼の背後には銃を構えた娼婦が立っていた。
 軽く鼻を鳴らし、ジェリーの死を確認した娼婦は意気揚々と車に向かう。
 だが、娼婦もまた物陰からの狙撃で射殺される。

 物陰から姿を現したのは売春ブローカーの弟分だった。
 車から大金の入ったバッグを取り出し、自分の車に戻った彼は満面の笑顔を浮かべる。

 「私の言った通りになったでしょう?」

 助手席の小さなラジオがネバっこい色香を含んだ声で囁いた。

 『クリープショー』は1、2共に、各話の繋がりはコミックブックの1シーンが実写化されるスタートと、
 逆に実写ラストがコミック絵になるという演出面での共通項があった
 が、3ではそういった演出は無く、登場人物全てが”同じ街に住んでいる”という繋がりを持っている。
 ちなみに老人の露店にあったリモコンは第1話で登場。
 また、しゃべるラジオもリモコンも、ある教授(勿論『登場人物』の1人)が
 作った物と分かるエピソードがあったり、諸々のクロスオーバーが楽しい。
 各話中々に後味が悪いので、国内版のDVDが出たら是非観てみて欲しいのだわ。