こころ変わり(ロバート・ブロック)
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297 名前:本当にあった怖い名無し :2009/03/17(火) 12:14:30
- 高橋葉介の流れで歯車少女の話を書こうと思ったけど、どうせならその元ネタ(多分)の方を。
ロバート・ブロック「こころ変わり」
主人公は古い懐中時計を持っている。
もう壊れて動かないけれど、とても大事な時計。
ある日、裏道で古い時計屋を見つけて「ここなら直せるかも」と思って中に入る。
店内は壁掛時計や置時計など無数の時計で埋め尽くされ、カチカチと針の進む音で満たされている。
しかも全てが寸分の狂いもなく同じ時刻を刻んでいて、店主の几帳面さが伺える。優れた時計職人である店主は彼の時計を誉め、難しいが何とか直してみようと約束する。
時計が無事に直った頃、店の手伝いをしている孫娘と主人公は恋に落ちる。
頑固な店主は、孫娘と主人公の交際を認めなかった。
孫娘も彼に好意は抱きながらも、自分を大事にしてくれる祖父を裏切れない、と言う。
煩悶としていた主人公に、大都市への転勤の辞令が降りる。
追い詰められた彼は孫娘にプロポーズし、一緒に来てくれと言うが、断られる。
彼はなすすべもなく独りで大都市へと向かう。彼女に手紙を出しても店主が握りつぶしてしまうため、主人公は友人に頼んで
店と彼女の近況を知らせてくれるように頼む。
友人からの何度目かの連絡には「彼女が病気で死んだらしい」と書かれていた。
全てを投げ捨てて戻って来た主人公に、友人は説明する。
ある日、店を訪ねてみたら店主は憔悴しきって彼女のベッドに付き添っていた。
数日してまた行ってみたら店は閉まっていて、ドアに白い花輪が掛けてあった、と。
(続きます)
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298 名前:本当にあった怖い名無し :2009/03/17(火) 12:15:05
- 主人公は店を訪れる。
折りしも振り出した雪に、白い花輪は萎れかけている。
彼はドアを押して、中に入る。
店内は静まり返っている。無数の時計はそれぞれ勝手な時刻を指して止まっている。
店主の名を呼び、奥へと歩を進めた主人公の耳に、あの愛しい声が飛び込んでくる。
「戻って来てくださったのね。待ってたわ」と。奥の部屋の真ん中に、彼女が立っている。
病気にかかって、とても苦しくて、おじいさんがずっと看病してくれてて、
私は治ったのだけれど、おじいさんが疲労で倒れて・・・と彼女は言う。
主人公は店主の死を悼みながらも、彼女が暴君から解放されて自由になったことを心中で喜ぶ。
彼は彼女に近づき、肩に手を置く。その身体はとても冷え切っている。
彼女を暖めたくて、彼は彼女を抱き寄せ、その胸に顔を寄せて・・・
悲鳴をあげて彼女を突き飛ばし、店の外に転がり出て、彼女と店から逃げ去る。彼女の胸から聞こえたのは心臓の鼓動ではなく、もっと固く冷たい・・・時計が時を刻む音だった。
・・・
原題「Change of Heart」のダブル・ミーニングが上手いと思う。
このオチも何て言うか、救いがなくて最高。
ロバート・ブロックは「サイコ」の原作者で、クトゥルーの語り手の1人でもあるんだけど、
むしろこう言うリリカルな短編作品の方が味わい深いと個人的には思う。
(あと、おまけでちょっとだけ)
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299 名前:本当にあった怖い名無し :2009/03/17(火) 12:15:39
- ちなみに高橋葉介の歯車少女の方(題名忘れた)。
主人公である夢幻君は、一夜を共にした見知らぬ少女が処女であったことに気づき、
何故行きずりの他人に身を任せたのか?と彼女に訊く。
彼女は答える「私はもうすぐ死ぬのです」と。生まれつき身体の弱かった彼女を生かすため、父親は彼女の身体に機械を入れていった。
肺が悪くなれば肺を、心臓が駄目になれば心臓を、機械と取り替えられて彼女は今まで生きて来た。
その精巧なメカニズムは毎日毎日父親の精密なメンテナンスを必要とした。
だが、その父親は数日前に死んだ。
もう彼女の身体を調整できる人間はいない。
メカニズムは日々狂い続け、もうすぐ私はバラバラに弾け飛ぶ。
その前に生きた証を残したかった。と。半信半疑の夢幻君に、彼女は胸の音を聞かせる。
心臓ではない、亜鉛のポンプの駆動する音。
そして、夢幻君の目の前で彼女の身体は大きな軋みを上げる。
「ああ、お願いです・・・どうか私を見ないで」と言い残し、彼女の五体はバラバラに千切れ飛ぶ。
その胸から飛び出した歯車がコロコロと転がって、夢幻君の足にぶつかって止まる。・・・
こっちも十分後味悪い。作者が(多分)ギャグのつもりで描いてるのが余計後味悪いw