子供の親はあんただけじゃないんだ

880 名前:本当にあった怖い名無し :2010/08/02(月) 15:26:33
昔読んだ短編

山奥に一家が暮らしていた。
木々は多いが同じぐらいに石も多い土地で、
水場は小さな泉ぐらいしかない場所だったが、
そこは現代のインフラの発展ぶりで、水道はしっかりと山の下から引かれていた。

ある時、一家の娘が行方知れずになった。
ようやく見つけたものの、一人で泉に遊びに行っていたらしい彼女は、
溺れ死んで泉に浮かんだ姿で発見された。体はひどく冷たかった。
もうこんな思いはしたくないし、誰にもさせたくない、
冷たい体に寄り添いながら一家の主人はそう思った。
そうして彼は、泉に鉄網で蓋をした。
もう誰も子を失わないようにと、蓋は固く閉ざされた。

山奥にもう一つの一家が暮らしていた。
それは母子で、渇きを抱えながら水を求めていた。
子供はもう衰弱しきり死にそうだった。
今まで、弱い子供を何人も亡くしていた母親は必死で水場を探した。
水の気配を感じてようやく泉を見つけたが、そこは固い蓋で閉ざされていた。
母親は蓋を外そうと躍起になった。

その母子は鹿だった。蛇口を捻れば出る水は無縁のもので、泉の水が頼りだった。
母鹿は角を用いて何度も蓋を持ちあげようとしたが、びくともしない。
無理矢理に行っているうちに、角が根元から折れて血がこぼれた。
折れて飛んだ角は、弱り切り横たわる小鹿のそばに落ちた。
母鹿は血を流しなが、それでも、残ったもう片方の角で蓋を開けようとし続けた。
それでも蓋は開かず、小鹿は冷たくなっていった。

後に人間一家は鹿の件を知らされて鉄蓋を除去することになるのだが、
鹿の件を知らせる時の「子供の親はあんただけじゃないんだ」とかいう台詞が重かった。


888 名前:本当にあった怖い名無し :2010/08/03(火) 01:30:50
>>880
蓋外した途端また溺れる人が出たりしたら更に後味悪いな

897 名前:本当にあった怖い名無し :2010/08/03(火) 22:15:08
>>880
つまり、親の気遣いは単にエゴに過ぎなかったってことなのか・・・