ホーム » 小説 » 小説/さ行 » さよなら渓谷(吉田修一)

15 名前:吉田修一「さよなら渓谷」 1/4 :2010/10/11(月) 18:06:47
都心からそう遠くない景勝地、桂川渓谷。
そこの小さな団地に暮らす、立花里美という女の息子が殺される。
当初は変質者の仕業かと噂されていた事件だったが、里美の警察に対する説明と、
実際の行動に違いがあり、疑いの目は徐々に里美に集まる。
マスコミのインタビューに威嚇し、日に日に厚化粧になる里美。
注目を浴びてはしゃぐ彼女の姿に、報道は次第に熱を帯びる。
そうした騒ぎの中、とうとう里美は警察に事情聴取を受けることとなった。

中堅出版社記者の渡辺は、この事件の取材の合間に、里美の隣の住人尾崎尾崎が、
大学時代に女子大生への集団レイプ事件を起こしていたことを
偶然にも知ってしまう。この隣り合わせた奇妙な偶然に引っかかりを覚えた渡辺は、レイプ事件の詳細を調べ始める。

一方、取り調べを受けていた里美は黙秘を貫きながらも、尾崎との関係を匂わせ、警察は尾崎の事件への関与を疑い始める。
尾崎は警察に、里美との仲を否定する。帰宅すると、部屋がひどく散らかっていた。
妻のかなこは片付けることを許さず、相当に苛立っているようだった。

渡辺が調べるうちに浮かび上がる、尾崎とレイプ被害者の水谷夏美の過去。
尾崎は執行猶予の身となり、大学を辞めてしまった。
その後、通信制の大学を卒業し、野球部の先輩の伝手で証券会社に就職した。
取引先との接待では事件をネタにされ、先輩には「レイプ野郎の分際で」と罵られ、
社内にも事件のことは伝わり、露骨にからかわれることもあったが
生来の真面目さが評価を受け、また整った容姿が顧客を増やす要因ともなったため、仕事は順調だった。
上司の紹介で婚約も決まっていたある日、尾崎は忽然と姿を消してしまう。
そして今は、この静かな渓谷に身を落ち着け、隣家の事件で集まったマスコミ陣に
「ぞくっとする美貌」と密かに評されるほどの妻と二人で暮らし、
ひょっとすると浮気の果ての殺人事件にも関与している可能性があるのだ。


16 名前:吉田修一「さよなら渓谷」 2/4 :2010/10/11(月) 18:08:19
水谷夏美は事件後、学校を辞め、自殺未遂と精神病院への入退院をくり返していたようだ。
その後、社会復帰を果たし、就職した会社で婚約をするがどういうわけか事件が明るみになり、それを破棄されている。
それから数ヶ月をあけて再就職。そこで知り合った男性にプロポーズをされ、今度は結婚している。
しかしその男からと思われる家庭内暴力で、救急車騒ぎを数回起こした挙句
その入院先の病院から着のみ着のままで一円ももたず失踪しており、
今はもうすでにこの世には存在しないかもしれないらしい。
その事実を尾崎に告げる。

かなこが「夫と里美の関係に悩んでいた」と警察に話したことにより、尾崎は捕まる。
渡辺がかなこにその事実を確認すると、彼女は逆上した。
もしかすると、かなこは尾崎が過去に犯した罪を知っているのかもしれない。
尾崎が里美と関係を持ち、子供が邪魔になって殺人を教唆したという疑いで再びマスコミが集まる。
その騒ぎの中、かなこと尾崎は籍を入れておらず、彼女には住民票もないことを渡辺は知る。

渡辺は、レイプ事件の裁判の公判記録を読んだ。
夏美は友達3人と新宿で遊んでいた時に、大学の野球部に所属していた尾崎たちに声を掛けられる。
夏美が一番乗り気ではなかったのだが、彼らは4人の中で最も美人で色白の夏美に興味をそそられる。
女性4人のうち2人が途中で帰り、夜のグラウンドを見たがった夏美と、
残りの友人・柳原景子との2人で、大学の集会室まで着いて行ってしまった。
部屋に入ると、尾崎を気に入った景子がしなだれ掛かる。
他の男達は、夏美を笑わせようと優しかった。
空気が変わったのは、一人の男が尾崎と景子の間に割って入った時だ。
尾崎は男を蹴り飛ばした。一瞬、場が緊張したが、
野球部でエースの尾崎に蹴られた男が媚びる形で、許された雰囲気になった。
その許された空気が全員に伝わり、みんなが景子の身体を触り始めた。
それに危険を感じた景子は、隙を突いてトイレに逃げ込む。
何も知らずにトイレから戻る夏美。景子が気を落ち着けてから戻った時には、夏美ははがいじめになっていた。
その様子を景子はふざけていると思い、5分は眺めていたという。


17 名前:吉田修一「さよなら渓谷」 3/4 :2010/10/11(月) 18:09:48
「その時、このままここにいたら私もああなると思って、気付いた時には私は部屋を出ていました。
 そして『夏美ごめん、もう私には助けてあげられない』
 そう思ってドアの外で夏美の叫び声と泣き声を聞いていました」
「私は助けを呼びませんでした。だって、そうすれば、夏美は
 レイプをされたことになってしまう。あれはレイプなんかじゃないんです」

渡辺は、被害者の夏美の写真を入手した。予感していた事ではあった。
が、あまりの事実に、渡辺は激しい衝撃を受け、言葉を失う。

そこに写っていたのは、かなこだったのだ。渡辺はかなこに会い、話を聞く。
夏美(=かなこ)は事件後、周囲からの好奇の目に晒された。
両親には、軽率な行動を取った結果だと責められた。
バラエティー番組を見て笑えば「あんな目に遭って、よく笑っていられるな」と、
夏美を見る目が物語る。間もなく両親は離婚した。
婚約者には過去を調べ上げられ、一方的な婚約破棄ではないと
主張するために、職場で事件のことを吹聴される。
そんな折、夏美と尾崎は映画館で偶然の再会を果たす。
逃げる夏美に、尾崎は許しを乞うた。
それでも逃げる夏美に、どうすれば許してもらえるかと尾崎は問う。
「じゃあ、私より不幸になってください。」
それから暫く後に、夏美は、全てを受け止めると誓ってくれた男性と結婚した。
しかし、それも長くは続かなかった。夏美が大学時代の友達と話していると
「あの友達は知ってるんだよな。俺を見て笑ったぞ。
 輪姦された女と結婚して、とんだ貧乏くじを引いた哀れな男だ、って笑ったんじゃないのか?」
と豹変し、暴力すら振るうようになった。
過去の経験から、セックスに苦痛を感じている夏美に対し
「大勢の相手をしたほうが愉しいんだろ?」となじる。
夏美が忘れようとしても、誰もがそれを許さないのだ。

かなこが自分の証言を撤回した。里美も自分の証言は事実ではないと言っているという。
尾崎は釈放された。かなこは「さよなら」と書置きを残して出て行った。


18 名前:吉田修一「さよなら渓谷」 4/4 :2010/10/11(月) 18:12:15
渡辺は尾崎の元を訪れる。尾崎はかなことの再びの再会について語る。

尾崎は顧客の見舞いに病院を訪れ、そこに入院している夏美を目撃した。
映画館の再会から十年以上過ぎている。自分はあんな罪を犯したにも拘らず、
順調にやっている。彼女も家庭を持って、そこそこ幸せな生活を築いているのではないか、
そう思い始めた矢先だった。
夏美は見る影もなくやつれて、包帯を巻いていた。尾崎が夏美の前に姿を現すと
彼女はけたたましく笑い始めた。それから何度も夏美を訪ねたが、一度も
面会を許されることはなく、彼女は退院して行った。
それから数ヶ月。尾崎が婚約者の家族に会うために歩いていた夜の町で
寝巻き姿のまま、亡霊のように彷徨う夏美を見かける。
尾崎は夏美に駆け寄った。自分は、こんなにも彼女に会いたがっていたのだ。
「ねぇ、お金ちょうだい。あなた、私のために何でもするって言ったじゃない。」
それから尾崎は、夏美に言われるとおりに何でもした。
夏美は「かなこ」と呼んで欲しいと言う。
それは、あの時、グラウンドには行かず途中で帰った友人の名前。
やがて夏美は尾崎の元に身を寄せ、この渓谷へと移り住んできたのだった。

尾崎になら、自分のすべてをさらけ出すことが出来る。誰といるよりも
安心できる相手なのに、一緒にいても絶対に幸福にはなれない。
時々、幸せになりそうな瞬間がある。でも、それでは駄目だ。
一緒に不幸になると約束したのだから。
姿を消せば、許したことになる。一緒にいれば、幸せになってしまう。
「俺は、探し出しますよ。どんなことをしても、彼女を見つけ出します。
・・・彼女は、俺を許す必要なんかないんです」

酷い目に遭わされたからこそ、深く結びつける。犯罪を起こしたからこそ
巡り合えた。事件が2人を運命の男女と位置づけた、でも事件が
あるからこそ絶対に幸せにはなれない、という物語。
それにしても、逃げた女友達…。この場面が一番ウッと来た。


21 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/11(月) 19:59:51
夏美と里美は別人なの?
よくわからん

23 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/11(月) 20:19:10
結局子供を殺したのは誰?
あれ?読み飛ばしたかな?

38 名前:自治スレでローカルルール他を議論中 :2010/10/12(火) 00:21:58
>>21
書き方悪くて、すみません。
おそらく作者は読者に「夏美=里美と匂わせて夏美=かなこ」
のドンデン返しをやりたかったのかも知れませんが、そこらへんの
切り替えが上手く説明できてませんでした。

>>23
後半から里美なんてどうでも良い、みたいな扱いだったので
(渡辺の興味が、子殺し事件からレイプ事件へと急激にシフトしたため)
作中にも特に記されてなかったように思います。が、この事件の
背景には、畠山鈴香が下敷きになっているので、推して知るべし
といった感じなのではないのでしょうか。

 

さよなら渓谷 (新潮文庫)
さよなら渓谷 (新潮文庫)


後味悪い
(後味悪ければクリック)
読み込み中 ... 読み込み中 ...