ホーム » スレ別 » 後味の悪い話 その125 » 帰郷(九井諒子)

633 名前:本当にあった怖い名無し :2011/10/01(土) 23:31:14.33
「帰郷」という短編

魔王が勇者に倒されたという知らせが国中に知れ渡ってからしばらく。
勇者の出身地である辺境の村では、相変わらず悪さをする魔物が現れており、
魔王が倒されたなんて本当か?と怪しむ者もいた。
そんな折に、勇者がその村に帰郷してきた。
皆は勇者の帰りを喜び、彼をねぎらった。

村の子供達の中でも人一倍細くて弱そうだとバカにされていた少年が、
ある時、選ばれた者にしか抜けないと言われていた伝説の剣を引き抜き、
勇者だと祭り上げられ旅立ったのはもうだいぶ昔の事だった。
昔と変わらず少年のような顔で背も高くない勇者ではあったが、魔王はちゃんと倒しているという。
ただ、辺境の村周辺の魔物たちは野生のもので魔王の管轄ではないため、
魔王の根城付近のようには、魔王の死の影響を受けないようだった。

勇者は幼馴染の青年と久しぶりに二人で話をした。
またすぐにでも勇者は旅立つという。隣国との戦争が始まるからだ。
今まで人間たちは魔王という脅威に立ち向かうだけで精一杯だったが、
魔王なき今、今度は人間同士の争いが勃発するのだった。
隣国との戦争への参加を、はじめ勇者は拒んでいたが、
王は勇者の故郷をどうにかすると仄めかし、断ることは出来なかった。

勇者と王女の結婚をも王は望んでいた。
王女は隣国の王子と恋仲だった。
勇者は魔王との戦いまでの道中で、
王子や、彼の側近の騎士と親しくしていた。
彼らにどんな顔をして会えばいいかわからないと勇者はこぼす。
困り顔で何も言い返すことのできない幼馴染に、
すまない忘れてくれと勇者は言い、村人たちの用意してくれた宴の席へ向かった。


634 名前:本当にあった怖い名無し :2011/10/01(土) 23:31:33.68
宴の中で、木こりの男は手合わせをしてくれないかと勇者に言った。
勇者はそれを引き受け、とっくみあいをするために上半身の分厚い服を脱いだ。
裸の勇者の体は、鍛えあげられた筋肉質なもので、無数の痛々しい傷跡があった。
勝負の敗者は勇者だった。勇者は木こりにあっさりと投げ飛ばされてしまった。
手加減をしたわけではなく、魔物を相手にする時のように魔法で強化していなければ、
こんな風に普通の人間以下なものなのだと、勇者は幼馴染に向かって笑った。

村人の中には、相変わらず現れる魔物に苛立ち、本当に魔王を倒したのかと訝しがる者もいた。
勇者はとりあえず、村の周辺に魔物避けの魔法をかけておくことにした。
そこに悲鳴が聞こえた。勇者が駆けつけると、幼馴染が魔物に襲われているところだった。
人間とは思えないような身のこなしで勇者は魔物を倒し、幼馴染は無事に助かった。
魔物を倒す時の勇者の形相に幼馴染はあっけに取られた。
倒れている幼馴染を助け起こそうと、勇者は血まみれの手を差し伸べたが、
幼馴染は戸惑うばかりで、勇者は悲しそうな表情を見せた。

やがて勇者は村を出ていき、隣国との戦争がはじまった。
勇者は周囲の期待通りに王女と結婚し、二年後に矢に討たれて死んだ。
幼馴染は子供ができ、ごく普通の暮らしを送っていた。
今でも時々、魔物から助けてもらった後に勇者が見せた表情を、幼馴染は思い出す。
どうしてあの手を取って「ありがとう助かった」と言えなかったのか、そう後悔し続けていた。

おわり

 

竜の学校は山の上 九井諒子作品集
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