底流(筒井康隆)

325 名前:1/2 :2012/07/21(土) 02:09:09.44
筒井康隆「底流」

未来の日本では、テレパシー能力を持つ子供に特別教育を与え、
「エリート」として各部署に配置しつつあった。
18歳の主人公はエリート養成所を卒業したてで、労働管理局長として赴任したのだが…

(うっひゃあエリートだエリート様のお出ましだ!考えるな何も考えるな収賄とか愛人とか)
(やべえ全部読まれちまうんだよなエリートだもんなそうだよ
 俺は収賄した収賄した収賄したんだよクビにしてみろよ証拠はないんだぜ)

これは主人公を局長室に案内した中年事務員の意識。
エリート養成所では、普通人の意識の流れに対して反応してはいけない、と厳しく教育されている。
現所長である中年男は、主人公に剥き出しの敵意をぶつけた。

「お待ちしておりました、主人公さん。事務交代時間まで1時間少々ですね、迅速に済ませましょう」
(来やがったか若造めよくも俺の仕事俺の金俺の利権を奪いやがって
 局長に上り詰めるのに何年かかったと思うんだ35年だぞ35年)
(やっと2ヶ月前に局長になれたのに貴様は養成所を出ただけで俺がどれだけ苦労をしたか
 俺の親父はD級肉体労働者俺はろくに学校も出てない)
(やっとA級精神労働者になれたんだぞ俺は金が欲しかった威張り散らしたかった)


326 名前:2/2 :2012/07/21(土) 02:11:01.97
所長はにこやかにファイルの背表紙を読み上げる。
(何一つ教えてやるもんか俺の意識を読んでも何も見つかるまい失敗しろ失脚しろ精神の覗き屋め)

「えっ、実際の処理の仕方がおわかりにならない?またまたご冗談を」
(はいつくばって教えを乞えひよっこ青二才お世辞も言えない頭でっかちの精神的奇形者
 俺が35年かけて会得した仕事貴様に何がわかる)

「あなたは最高の教育を受けたエリートなんですから、このファイルの山を 全 部 お読みになればおわかりになるはずです」
「それにテレパシー能力をお持ちなんですから、私の心をご覧になればよろしいでしょう」
「さて、あと30分少々ありますが、もうお教えすることはございませんので、これで失礼させていただきます」
(死ね死ね死ry)

局長室に一人残された主人公は、中年男がが前もってエリートへの憎悪を増大させ、
引き継ぎの間仕事のことが意識に浮かばないよう苦心していたことにやっと気がつく。
彼の意識の底に、死に物狂いのどす黒い殺意があったことを知り、主人公はさめざめと泣いた。


327 名前:本当にあった怖い名無し :2012/07/21(土) 02:16:15.22
>>326
悲しい…ひたすら悲しい…。
所長にもエリートにも感情移入してしまう(´;ω;`)

328 名前:本当にあった怖い名無し :2012/07/21(土) 03:05:48.06
所長ストレスで勝手に死にそうだなこれ

 

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