相府蓮(塚本邦雄)

831 名前:1/2 :2012/09/13(木) 12:21:12.27
塚本邦雄「想夫蓮」

A子はカナダ人の画家と内縁関係になり、十代でB子を生んだ。
数年経って画家が亡くなり、A子は母娘がひっそりと暮らすためのこぢんまりとした建売を求めた。
その時の営業が、A子より若い、大学を出立てのA男だった。
交渉のため何度もA子宅を訪れていたA男は、ある日小学校から帰宅したB子を見て目を見張る。
白人ハーフのB子は天使のような美幼女だった。

A男はA子に熱心にアプローチし、二人は結婚した。
A子は外人と同棲してコブつきになった年上女と正式に結婚してくれたA男、
アイノコの私生児である連れ子を籍に入れてくれたA男に感謝し、献身的な良妻になった。
それがまずかったのだろう、A子は所帯じみてしまった。

B子は美しく成長した。
A子はハーフのB子を説明するのが面倒なので、人には養女だと云った。
B子はますます美しくなり、継父のA男といると「若奥様」のように見えた。
A子は家政婦かせいぜい親戚のおばさんである。

老いを自覚したA子が荒れそうな気配を見せると、A男とB子は気遣いを見せる。
A子はそれでやっと落ち着くのだった。


832 名前:2/2 :2012/09/13(木) 12:22:05.01
ところでA男は、A子の財産をあてにするわけでもなく、仕事熱心な青年だった。
別荘地を開発するプロジェクトチームのリーダーとして、勤務先の不動産屋で出世した。
A男はその別荘地に、蓮池を備えた見事な別荘を構えた。
こぢんまりとした建売の本宅よりもはるかに立派な別荘である。
毎年、蓮の花の季節にはA男の友人を招いて蓮見の宴を催すのが習慣だった。

別荘で男たちは酔いに任せて、
「蓮の花が咲くときに音を立てるというのは本当だろうか」
「破瓜のなまめかしい音と同じだ、耳を澄ましてみろ」
などと馬鹿なことを言っている。

明け方、蓮池にB子の悲鳴が響いた。
酔い醒ましに女二人でボートを漕ぎ出したが、風に当たりたいと言って不注意に立ち上がったA子が水に落ちたという。
男たちがオールや竿で池を探り、冷たくなったA子を引き揚げた。
慌て騒ぐ男たちを尻目に、A男とB子は見つめ合うのだった。

計画殺人ともA男とB子が愛し合ってるとも書いてないけど、後味悪い。

 

塚本邦雄全集〈第5巻〉小説(1)
塚本邦雄全集〈第5巻〉小説(1)