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3021/3:2012/12/21(金) 01:38:51.73
小松左京「くだんのはは」

昭和20年6月、空襲で焼け出された中学三年の少年が、
芦屋のお邸に寄宿して終戦までの2ヶ月を過ごすお話。

かつて少年の家で働いていた家政婦がそのお邸に奉公しているので、
家政婦のおかげで離れに住まわせてもらっている。
お邸には眼鏡をかけた上品な奥様が、もんぺも履かず働きもせずに暮らしている。
一人娘は病弱らしく二階から下りてこない。家政婦もまだ会ったことはないという。
お邸の主人は大陸にいるそうだ。

少年は神戸港の工場に動員されて、片道13kmを毎日往復している。
お邸の中は別世界のようだ。
ある日池の鯉を眺めていると、奥様が言った。
「ドイツ鯉というのよ、鱗が所々しかない奇形なの。奇形の方が値打ちが出ることもあるのよ」

教師も軍人も苛立ち、少年たちを毎日殴る。
空襲警報が鳴れば、仕事を中断して山に逃げるしかない。
お邸にはラジオも防火砂も火叩きもない。
空襲警報を聞いても平然としている奥様に、少年は思い切って問いかけた。
「小母さん…小母さんは、スパイなの?」
奥様はぽつりと言った。
「そんなのだったら、まだいいけれど」


3032/3:2012/12/21(金) 01:39:59.77
二階からは時々、女の子の悲しげな細い泣き声が聞こえる。
家政婦は台所で、金盥一杯の得体の知れない生臭いどろどろのものを用意していた。
それは病弱な娘の食事で、二階の廊下に置いておくといつの間にか空になっていて、
かわりに血膿で汚れた包帯が入っているという。

奥様の実家は九州の旧家で、切支丹を密告して財産を奪って成り上がったそうだ。
その怨みが積み重なって女は代々石女(うまずめ)になり、
たまに子供を生んでもすぐに死んでしまうという。
(でも小母さんは違うじゃないか)
奥様の夫の実家も似たようなもので、小作人の怨みがなぜか獣の姿の守り神になった。
守り神は財産を守るが、かわりに当主は気が狂うか酷い死に方をする。
「私の娘が守り神なのよ。おかしなものね、怨みで守られているなんて」

8月13日、奥様は言った。
戦争は終わった。陛下がそれをお告げになるのは明後日になる。
娘がそう言ったから間違いない。娘はもうすぐ死ぬ。
二階から一際悲痛な泣き声が響いた。

8月15日、少年は怒りにまかせて二階への階段をかけ上がった。
(お前が予言したから日本は負けたんだ!)


304 3/3:2012/12/21(金) 01:41:24.48
障子を力任せに引き開けると、そこには牛がいた。

京鹿子の振り袖を着て綸子の座布団に座った牛。
体は13~4の女の子で、額には角があり、茶色の毛に覆われて、
大きな目に草食獣の悲しみをたたえて。
細く高い女の子の声で泣いていた。
腕から指の付け根まで血膿で汚れた包帯を巻いて。
「とうとう見てしまったのね。その子はくだんなのです」

人と牛を一つにして件と書く。
件は歴史上の凶事の前兆として生まれ、
異変についての一切を予言して凶事が終わると死ぬ。
奥様は少年に、件を見た事を黙っているように言った。
公言すればきっと悪いことが起こる、出張中の父にも疎開している母と弟妹にも。
少年は約束を守った。

「しかし僕は22年後の今、この話を公にする。誰か件に詳しい人はいないだろうか」
「あのどろどろの食べ物は一体何だろうか」
「今年生まれた僕の長女には角があるのだ」
「件を見た者は件を生むのだろうか。これは異変の前兆だろうか」
「誰か教えてくれ!」


309 本当にあった怖い名無し:2012/12/21(金) 13:26:27.60
>>304
くだんのははって件の解説がやけに詳しく書かれてて気味が悪い
件子の姿を見るまで普通の小説なのに

 

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くだんのはは (ハルキ文庫)
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