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246本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 11:19:54.36
ドイツの小説家、ヴィルヘルム・ハウス作「隊商」も
最後まで読むとなかなか。
「アラビアンナイト」形式で、短編が繋がった中編。

カイロまで、広大な砂漠を旅する隊商の一団がいた。
彼らは途中で、盗賊に襲われ逃げてきたという男、ゼリム・バルフを拾い、
彼を安全な場所まで連れて行くことにする。

旅のあいだ暇を持て余す商人たちに、
ゼリムは「一人ひとりが順番に物語を語っていくのはどうでしょう」と
提案する。商人たちは面白そうだと並んで座り、
一日にひとつずつ、物語を語っていく。

途中、盗賊のオルバザンの一派が近くを通る。
しかしゼリムは青い生地に黄色い星が散りばめられた旗を立てて
オルバザン一味をやり過ごす。
「これがあれば彼らは素通りする」というゼリム。


247本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 11:22:16.62
砂漠の盗賊オルバザンを恐れる商人たちだったが、
ちょうど語り部の順番だったレザーという若い商人が、
自分の妹とその親友が奴隷商人にさらわれ、売り払われたとき、
助ける手助けをしてくれたのがオルバザンだと語る。

「オルバザンは気高い盗賊です。
 悪人以外から盗むことをせず、通行料を払う商人は見逃します」
レザーは彼のおかげで、今は妹も幸せに暮らしていると語った。

隊商には、ツアロイコスというギリシャ人の無口な商人がいた。
彼は左手をなくしており、非常に無愛想な中年の男だ。
商人たちは皆、彼を変えてしまったのはあの左手のせいだと思っていた。
「ツアロイコスさんは、何か面白い話を知っていますか?」と聞かれ、
重い口を開いたツアロイコスは、自分が左手をなくした時の話を始める。


248 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 11:27:57.54
ツアロイコスは元はパリへの留学経験もある
頭のいい青年で、コンスタンチノープルで医者をしていたが、
あるとき思い立ち、ヨーロッパに渡り商売を始める。

ある夜、謎の赤いマントを被った素顔が見えない男がやってきて、
「ついてこい」と彼を無理矢理ある屋敷へ連れて行った。
「こいつの首を切り落としてくれ、すでに死んでいる」と
ベッドに横たわる若い女性を指さす赤マントの男。
ツアロイコスは赤マントの脅しに屈し、彼女の首にメスを当て引き裂いた。

その途端、ビューッと赤い血液が噴きだした。
女はかっと目を見開いたが、すぐに瞳孔が開き息が止まった。
彼女はまだ生きていたのだ!
医者である彼なら、脈を測れば生きていると分かっただろうが、
ツアロイコスは赤マントに脅され、その余裕もなかった。

急いで逃げ帰るツアロイコス。
しかしそこで致命的なミスに気づく。
あの屋敷にメスを忘れてきてしまったのだ。
捜査の手はすぐに彼に及び、逮捕された。


251 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 11:31:53.20
あの夜、過失とはいえ自分が殺した女性はビアンカという名前で
すでに結婚が決まった知事の娘だったと知るツアロイコス。
殺人罪で死刑が決まった彼は牢の中で絶望するばかりだった。

「ツアロイコス!」と彼の名前を呼ぶ男がいた。
見ると、パリ留学をした頃知り合った数少ない友人だった。
「偶然この街へ来たら、お前が捕まったと聞いてやってきたんだ。
 街ではお前がビアンカと恋仲で、結婚に嫉妬して彼女を殺したとみんなが言ってるぞ」
「とんでもない、僕はビアンカに会ったこともない。彼女を殺す理由なんてないんだ」
「とにかく、出来る限りのことをしてみるよ」

友人は、法定に直訴する。
すると、
「過去の事件を調べて、同じような事例があれば同じ目に遭わせることで釈放してやる」
との答えが帰ってきた。
必死に過去の事件を調べる友人だったが、
とうとう同じような事件を見つけた。


252 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 11:35:13.24
その事件の犯人は、左手を切り落とされ、全財産を没収された上
国外追放という処分を受けたので、ツアロイコスも同じ目に遭わされるという。
「でも、これが精一杯なんだ。僕にはこれ以上どうすることも出来なかったんだ」
そう言われれば、彼も命の助かったのを喜ばないわけにいかない。
翌日、ツアロイコスは民衆の集まる広場に引き出され、
ギロチンで左手を切り落とされた。

傷が癒えるまでその友人の家で世話になり、
コンスタンチノープルに帰ったツアロイコス。
前の自分の家へ行くと、「なぜあなたの家に住まないの?」と不思議な顔をされる。
謎の赤マントの男が、ツアロイコスの家として一件の家を購入したという。
その家には手紙が置いてあった。

__ツアロイコスくん、僕が君にしたことはとうてい許されないことだ。
だが、これが僕にできる精一杯の償いだ。
君の家には毎年金貨100枚が届けられ、これから君は死ぬまで、
苦労することはないだろう。どうかこの不幸せな僕を哀れんでくれたまえ__


253 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 11:44:43.95
ツアロイコスは、はじめのうちこそ赤マントの男を恨んだ。
だが彼も哀れな男だ、と歳を重ねるうちに思い始める。
どうして彼がビアンカを殺さなければならなかったのかは分からない。
だがもう赤マントを恨み続けて生きる気はない、と。
長いツアロイコスの話が終わった時、商人とゼリムは涙を流していた。

やがて隊商は、無事カイロに到着した。
ツアロイコスは、一緒に旅をしたゼリムに
「良かったら一緒に食事をしないか」と誘う。
「では、少々お待ちください。着替えてきます」
食事屋でツアロイコスが待っていると、
やがて戸口に赤いマントを羽織った素顔の見えない男が現れる。
間違いない、あの日自分をビアンカの屋敷へ連れて行った男だ…

「出て行け!」
ツアロイコスが怒鳴ると、
「あなたは客人をそんなふうに迎えるのか?」と声がした。
赤マントがフードを脱ぐと、その下から現れた顔はゼリム・バルフだった。
「あの夜のことをすべてお話します」
二人はテーブルにつき向かい合う。


255 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 13:09:09.11
「あのビアンカは、元は私の兄の婚約者でした。
 しかし他の男と結婚したいばかりに兄との縁談を破談にしたあげく、
 それを抗議した兄と父に罪をかぶせ殺してしまったのです。
 追い詰められ、病で死んだ母は最後に、かならずビアンカに復讐するよう私に言い聞かせました。
 そして、いい人材がいる…と、ある男からあなたを紹介されたのです。

 あの日、処刑場で男らしく刑を受けるあなたを見て、私はあなたの人生に全責任を持とうと思いました。
 とうてい許されることではありませんが、それがせめてもの償いだと思ったのです」

ツアロイコスは、ゼリムの辛い半生を思い、
コンスタンチノープルのあの家に帰って、二人で暮らさないかと言った。


256 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 13:15:01.95
「いいえ、それは出来ません。既に部下が馬を連れて外で待っています。私は行かねばなりません」
最後に、本当の名を教えてくれないか?とツアロイコスは聞いた。

「…人は私を砂漠の主と呼びます。私は盗賊のオルバザンです」
それだけ言うと、オルバザンは馬に乗り、消えていった。

ビアンカ一人のせいでいろんな人の人生が狂ったというのがなんとも。


257 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 13:20:43.57
自分には古典の知識が欠けているから面白かったよ、乙。
縁談を天秤にかけるビッチは昔からいたんだな…

258 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 13:57:02.80
乙でした。オモロかったッス。
殺し役にいい男がいると主人公を赤マントに推薦したのが、
実はパリ留学で知り合った友人かと推測してしまいました。
自分で主人公をはめて、自分で弁護してやるという感じで。

263 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 18:38:31.41
>>253
なんでその赤マントは自分で殺さなかったんだ。
人を使って殺した動機がよくわからないんで後味悪い。

265 本当にあった怖い名無し:2013/04/22(月) 19:23:05.89
>>263

すまん、今帰ってきて確認したw
オルバザンは最初は自分で殺そうと思ってたけど、
ビアンカの父に恨みを持つ、ビアンカの屋敷の下男が
「あっしがいいやつ知ってまっせ」という感じでツアロイコスを紹介した。
自分もなんだかんだ言って罪に問われるのは嫌だという気持ちがあったが、
ツアロイコスが左手を切り落とされるのを見て深く悔むという感じかな

 

隊商―キャラバン (岩波少年文庫)
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