ホーム » 小説 » 小説/あ行 » 海の中へ(ロアルド・ダール)

6331/4:2013/06/26(水) 03:03:46.13
ロアルト・ダール「海の中へ」

イギリスからアメリカへ向かう客船で、
退屈した客のために航行距離当てオークションが行われていた。
これは、気象や海の荒れ具合を加味して
当日正午から翌日正午まで何マイル進むかを賭けるゲーム。
船長が予測した航程から上下に10マイルずつ加減し、
(この場合515マイルと発表されたので、505~525マイル)
1マイルごとに籤を売り出す。

その他に低マイル圏と高マイル圏の籤があり、
それぞれ505マイル以下と525マイル以上の数字全部が含まれる。
当選者には総額の90%が渡り、残りは船員救済基金にまわる。


6342/4:2013/06/26(水) 03:08:41.92
数日嵐が続いたので、ボティボル氏は明日もろくに進むまいと、
低マイル圏の籤を200ポンド(2年間の夫婦の貯金全額)で落札した。
ボティボル氏は新車を買って女房を驚かせてやろうと夢想した。
(ただいま、エセル。土産を何にしようか迷っていたらこの素敵なオープンカーを見つけたんだ)

翌朝、海は凪いでいた。
昨日までの遅れを取り戻すように、船は高速で進んでいる。
このままでは高マイル圏が当たってしまう!と危惧したボティボル氏は、危険な計画を思い付いた。
わざと海に落ち、船を止めて救援ボートを出させる。きっと一時間は足止めできる。


636 3/4:2013/06/26(水) 03:10:42.59
目撃者を探してデッキを歩き回ると、優しそうな中年女が手すりにもたれて海を見ていた。
少し話をして、女が盲人でも聾唖者でもない事を確かめてから、
ボティボル氏は少し離れた所から飛び下りた。
「助けて!助けて!」
と、わざとらしく叫ぶ事も怠りなかった。

女は、救命浮き輪を投げるべきか悲鳴をあげて人を呼ぶべきか
迷うような表情を浮かべて、ボティボル氏を見ていた。
ボティボル氏は浮き沈みしながら手を大きく振って何かを叫んでいたが、
船はあっという間に遠ざかった。


637 4/4:2013/06/26(水) 03:15:01.49
しばらくして、ゴツゴツしたオールドミスが女に近づいた。
「あんたこんな所にいたの、探したのよ」
「あのね、今男の人が海に飛び込んだのよ」
「バカ言わないで」
「本当よ、運動するって言って、服も脱がずに飛び込んだの」
「はいはい、もう一人で勝手に出歩いちゃ駄目。
 私がいなくちゃ困るって、あんた自分でもわかってんでしょ」
「わかってるわよ、でもあの人親切だったわ。あたしに手を振ってくれたのよ」

補足すると、中年女は知障でオールドミスは保護者というかおそらく姉妹。
ボティボル氏は溺死した。

 

あなたに似た人〔新訳版〕I〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
あなたに似た人〔新訳版〕I
〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕


後味悪い
(後味悪ければクリック)
読み込み中 ... 読み込み中 ...