ロバート(スタンリイ・エリン)

6591/6:2014/02/14(金) 09:55:50.52
スタンリイ・エリン「ロバート」

六年生担当の女教師は、優等生ロバートに居残りを命じた。
彼は最近ぼんやりしている事が多いのだ。

友達と喧嘩したのか悩みでもあるのか、あなたは最近おかしい、
今日だって先生が話しかけてもぼんやり無視した、
何を考えていたのか正直に言いなさい。

女教師が何の気なしに腕を上げると、
ロバートは殴られるのを防ぐような身振りをして、
何も考えていませんでした本当です信じてください、と答えた。

彼女はその身振りと言葉に苛立ったが、もう一度なるべく優しく訊いた。
ロバートは、先生が死ねばいいと思いました、
でも僕先生が大好きなんですごめんなさい、と答えた。


6602/6:2014/02/14(金) 09:58:19.72
彼女は校長室にロバートを連れて行った。
校長は机上の空論を振りかざす若造だが若い分伸びしろがある、
と初老の彼女は上から目線で信頼している。

ロバートは校長の蔭に隠れるようなそぶりをした。
校長に訊かれたロバートは、僕は何もしてないのに先生が居残りを命じました、
先生が死ねばいいと思ってるんでしょ、無視するなと言われました、と答えた。

彼女は、きっと居残りを命じられて気を悪くしたのだわ、
ただぼんやりしていただけなのにしつこく訊かれて、
つい思ってもいない事を答えたのよ、と善意に解釈した。

翌日彼女は、ロバートに水差し当番を命じた。
先生の水差しを洗って水を入れる仕事だ。


661 3/6:2014/02/14(金) 10:01:14.32
一種の名誉なので皆がやりたがっているのだ。

ロバートは水差しを教卓に置き、
毒なんか入れてません本当です嘘だと思うなら僕に毒味させてください、と言った。

女教師はまた居残りを命じ、校長と面談した。
ロバートは、お前水差しに毒を入れたね先生を甘く見るな、
と昼休みに先生が言いました、皆も聞いてます、と言った。

驚き慌てた女教師は母の遺品の銀製のペンがない事に気づき、
なぜかその事を口に出してしまい、そんな場合じゃないでしょう、と校長に呆れられた。

ペンは教室に落ちていたが、話を誤魔化した上に
ロバートに盗みの濡れ衣を着せようとしたと校長が誤解したのではないか、
と不安になった。


662 4/6:2014/02/14(金) 10:03:52.76
外では、ロバートがスクールバスを待つ級友に囲まれている。

翌日から生徒が変に従順になった。
女教師に決して逆らわず、彼女が机の間を通るとロバートのように身をすくめた。

もうすぐ夏休み、すなわち年度末。
年度末には生徒が教師にクッキーやストッキングなど
ささやかなプレゼントをする習慣がある。
彼女は毎年たくさんのプレゼントを貰うが、今年は1つも貰っていない。

放課後、ロバートがチョコの包みを差し出して、
安心してください毒なんか入ってませんよ、と言った。

彼女はロバートの顔を何度も叩いた。
教員生活38年、初めての体罰。
気がつくと校長が彼女を止め、生徒が遠巻きに見ていた。


663 5/6:2014/02/14(金) 10:08:19.09
生徒が親に彼女の横暴を訴え、親達が教育委員会に抗議して免職命令が下ったが
彼女のキャリアに免じて校長の裁量で握り潰すつもりだった。
しかし一人の生徒を目の敵にして理不尽な体罰を与えるとは庇いきれない、
被害妄想も大概になさい、と諭された彼女は、
あと2年で定年なのに私の年金はどうなるんです!私の老後は!あの子のせいで!
と喚いて外に飛び出し、車に轢かれた。

翌日担任に抜擢された臨時の若い女教師は、
ロバートに気遣うような笑顔を見せた。

ロバートは近所なのでスクールバスを使わず、徒歩で通学している。
彼の家は近所と同じありふれた家だが、
隣家とは違い全部の窓にブラインドがおりている。


664 6/6:2014/02/14(金) 10:10:30.68
薄暗い家の中ではドレッシング・ガウン姿の父が
肘掛け椅子に丸くなり、ブツブツ呟いている。

母は父にコップの水を飲ませようとしている。
「騙されるもんか…お前俺が早く死ねばいいと思ってんだろ…
 ちゃんとわかってるんだ…飲んだら死ぬんだろ!」
「いい加減にしてくださいな、ホラ私が飲んでもなんともないでしょ」

ロバートは両親のいつものやりとりをうっとりと見守り、明るく言った。
「ママ、ただいま!おやつ頂戴!」

自分の影響力を小手調べ的に試したのか、両親のやりとりを真似ただけなのか…

 

九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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