ホーム » 小説 » 小説/あ行 » 暗殺剣虎ノ目(藤沢周平)

31 名前:1/3 投稿日:05/03/05 13:54:29
投下します。藤沢周平の暗殺剣虎ノ目。

江戸時代、ある藩の武家に志野という娘がいた。志野には婚約者がおり、名を大四郎といった。
大四郎は美男子で剣の腕もたつイケメンで志野は彼に夢中だった。
だが、兄の達之助は大四郎にあまりいい感情を持ってはいなかった。
女好きとの噂もあったし、なにより達之助の通う剣の道場と、大四郎の通う道場が対立していたからだ。
だが、ほれた弱みからか、志野に兄の諌言は聞こえず、家族に嘘をついて大四郎と密会する日々を送っていた。
そんなとき事件が起こる。達之助と志野の父親が夜道で何者かに殺されてしまったのだ。
犯人を捜す達之助。そしてわかったことが、父は金遣いの荒い藩主に諌言したために暗殺された、
ということであり、その犯人のつかう技が虎ノ目。
虎ノ目というのは、たとえ真っ暗闇であろうとも正確に急所を狙う技であり、
その剣の遣い手は幼少のころから暗闇で物を見、見えた物に剣を振る練習を積む、ということだった。
そして達之助は大四郎に犯人の目星をつける。もともと虎ノ目は大四郎の道場の秘技であり、
大四郎はその道場の高弟だったからだ。

しかしそれはすべて状況証拠にすぎなかったため、
達之助は道場同士の試合にかこつけ、大四郎との一騎打ちにかける。
虎ノ目は暗殺剣のため、その存在を他人に知られるわけにはいかず、
疑う者がいれば疑う者を抹殺しなければならない。もし彼が犯人ならば、
彼は邪魔な追跡者を公然と始末することができる。木刀の試合とはいえ、
打ち所が悪くそのまま死亡、という事故はたびたびあることだからだ。
しかしそれは達之助にとっても同じことであり、
大四郎の剣が殺気をはらんでいたらそのまま打ち殺すつもりだった。
それが藩主子飼いの暗殺者を倒すことができる唯一の機会だったからだ。
二人の試合がはじまった。


32 名前:2/3 投稿日:05/03/05 13:56:12
(と、ここでいきなり場面転換)
7年後。志野には家庭ができていた。夫と男の子が一人。
無論夫は大四郎ではなく、周助という真面目を絵に描いたような男だった。
あの一件で大四郎とは破談になったため、達之助は志野をもてあまし、
周助は固辞したものの、強引に周助の家に嫁にやったのだ。
そののち達之助も嫁を貰い、守るものができたせいか、最近は父のこともあまり口にしない。
あの殺し合いのような試合も引き分けに終わった。
志野はそれなりに幸せな日々を手に入れていた。平凡だが真面目な夫と、かわいいざかりの子供。
ある日、陽が沈んでも庭にいる二人を志野は呼びにいった。夫と子の話声が聞こえてくる。
「星を見たか。よし、今度はそこにある石を見ろ。石も星のようにはっきり見えてくるはずだ」
志野は夫の話ていることに聞き覚えがあった。
兄だ。兄が虎ノ目のことを調べている時に聞いた虎ノ目の修練方法だ。
まだ二人の声が聞こえてくる。

33 名前:3/3 投稿日:05/03/05 13:57:02
「今度はこの草だ。葉は何枚ある?」
「8まい」
「よし、だいぶ見えてきた。ではまた目を星にもどすぞ」
夫のことで、なにか見落としていることはないかと、志野は必死で記憶を手探りした。
そこにあるのはいつもの平凡な夫の姿だったが、そういえば、こんなことがあった。
二人がまだ結婚する前のこと、一緒に道を歩いていると、志野は不意にひゅっ、という鋭い音を耳にし、
同時に眼前に光るものを見た。はっとのけぞったとき、周助がそれを掴んでいた。
それは竹の矢だった。なんのことはない、そばで遊んでいた子供が志野の方へ誤射したものだった。
その後結婚、出産とあったため今の今まで忘れていたが、たとえ子供の矢とはいえ、
飛んできた矢を掴むなどということが素人にできるものなのだろうか?
そういえば、周助は最初自分との結婚を渋っていた。それは殺した男の娘と結婚したくなかったのでは?
志野は、夫が、実の父親を殺したその剣を実の子に伝授しようとしているのかもしれない
その光景をただ黙って見ていることしかできなかった。

おわりです。長くてすまん。

 

隠し剣孤影抄 (文春文庫)
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