眼には眼を

北アフリカで開業している医師は、嵐の夜中に急病人への往診を断った。
後日その病人が亡くなったことを聞いて顔をしかめるが、
自分の責任ではないと自己弁護する医師。

別の往診依頼に車で村に出向き、降りて導かれるままに進むが、
病人はおらず、怒って車に戻るもタイヤは持ち去られていて、走行不能状態。
バスは一週間後と聞いて、ブチ切れの医師に同じ町から来たと言う男が
「近道を知っている。道はキツいが歩いて明朝には着ける」と申し出る。
誘いに乗った医師は谷を渡るリフトのトラブルで荷物を谷底に落とされてしまう。
荷物の中には飲み水も入っていた。

その後、砂漠を歩いても歩いても人っ子一人出会わない。
医師は喉が乾いて堪らない。約束の翌朝をかなり過ぎてから
「道を間違った。明日の朝まで掛かる」と言う男は、飲み水を分けてくれと言っても
「これは自分の分だから」と譲らない。

水場は無いのかとの問いに、井戸はここから３時間だが、方向違いで
町に戻るのは遅れると。それでも、と井戸まで歩くが、涸れ井戸だった。
怒る医師に、男は井戸だと言ったが、水が有るとは言っていないと。
そして意味有り気に笑うと、最後の水だ、飲め、と瓶を差し出す。
医師は逆に不安になってその水を飲むことができない。
翌朝、男は医師の見ている前でその瓶を飲み干す。

この根競べには分が無いと悟った医師は、唯一残った持ち物のメスで、
隙を突いて腕に切り付ける。俺を殺せばあんたも日干しだ、と叫ぶ男に
手早く止血をすると、医師は取引を持ち掛ける。止血はしたが半日以内に
まともな手当てをしないと、壊疽をおこして腕を失うと。
直ぐに最寄の人家まで案内しろと。

男は「この傷では歩き続けられない。ここで待っているから急いで助けを
呼んでくれ。道はこのまま真っ直ぐだ」と半泣きで言う。

間違い無いなと念を押す医師に、男はその場に倒れて
「ドクテール！トゥ ドロワ！トゥ ドロワ！(先生！真っ直ぐ！ずっと真っ直ぐ！)」と
叫んでいたが、医師の後ろ姿が岩陰を過ぎると、倒れたまま可笑しくて
堪らないという風に笑い出す。笑いながら「トゥ ドロワ！」を繰り返す。

医師はふら付く脚をなだめるように歩いている。灼熱の太陽が照り付ける。
行く手の砂漠は遠景へと引いて行くが、どこまで引いも砂漠しか見えない。

～Fin～

医者の立場　（男の妻の死も、今まで数多くあった患者の死の一つでしかない）　と
男の立場　（貧しいうえに辺鄙な村で頼る先がないのにもかかわらず断られ、貴重な
働き手で子供　（あらすじで触れていないが幼い息子がいる）　の養い手でもある
妻の死に追い詰められる）　の違いが不寛容を生み出していく過程は見ていて息苦しい。

>>467
水をやると持ち掛けたのは(毒入りを暗示すれば)飲めないだろうと
読んで、かつ、それを後で自ら飲み干すことで精神的ダメージを
与えようという意図だったかと。
最後に笑ったのは、医師がこれから味わう苦しみを嗤ったのかと。

ちなみに、男も自らそこで果てるつもりのように受け取れますた。